彼方の背中を遠くから眺めてました。
ずっとずっと長い間。
彼方はどうしてそんな顔をして、肩を張って『強さ』を求めるのですか?

 

 

 

 

 

 

人は何故『強さ』を求めるのですか?

 

 

 

<背中>

 

 

 

 

 

“三蔵”と呼ばれるその人は何処に居ても目立つ金の髪と紫の瞳を持つ。
美人…と男の人に言うのは失礼だと思っているけど、その言葉がピッタリな程美人なのだ。
町を歩けば男女共に振り返るくらい…。
あたしは三蔵の時折見せる優しさが好き。
只、それはあたしに向けられる事はない。
あたしは三蔵のお荷物でしかないのだから。
その事実はどんなに頑張ろうとも変える事は出来ない。

「三蔵に言ったらそれで終わり」
何時もそう自分に言い聞かせていないと三蔵に言ってしまいそうになる…。
言ってしまえたらどんなに楽か………。
でもそれは許されない。
あたしは途中の町まで乗せて貰う事を願い、それの条件として何も4人と関わらない事を約束したのだから。
約束をしたのはあたし。
それで許可したのは三蔵。
足手纏いになったらその場で置いてく。
約束を破って三蔵を好きになったのはあたし。

 

 

 

一方通行で狡いのはあたしだ……。
悲しいと叫べないのもあたしがそれを承諾したから。
しなければこんな思いはしなかった。
でもそうしなければ、此処に…三蔵の傍にいる事は出来ない。
あたしは三蔵の傍にいて、三蔵の事を知りたい。
三蔵の優しさも強さも弱さも、全部。



 

 

 

貰えずに泣くあたしはまるで子供の様。
三蔵に言いたい…言えない。

 

 

 

 

 

未だ三蔵と旅をしたい。
例え三蔵に伝えられないとしても、傍にいられる事を祈る。
ちっぽけなガラクタの様なあたしが崩れて無くなるまで。
三蔵の傍に居たい。
あたしだけのモノになって。





 

 

 

「三蔵…」
休憩中に樹に寄り掛かってボーッと考え込んでいると三蔵が隣まで来て煙草に火を点けた。
わざわざあたしの隣に来て………。
そんな必要なんてないのにも関わらず、悠々と煙草を吸う。

 

嬉しい事。


 

そうだと思う。
でも……あたしは三蔵の“何か”ではない、あたしはあたし。
三蔵と関わる事は目的地まで着けばそれで終わる。


 

 

此があたしと三蔵の軽薄な関係。


 

 

その場に居たい。
隣に居たい。

でもそれは出来ないから…。


 

 

あたしに出来る事は………三蔵から離れる事。

 

 

 

ゆっくり確実に歩いて自分の足で三蔵から離れる。
解りきってた事。

「…何処へ行く」
長い間聞いていなかった様な懐かしく低い声。

 

「何処って、八戒のトコだけど?」
「何をしに」
「何って手伝いに」
三蔵の心が読めない。
三蔵が解らない。


 

 

その侭途切れた会話。
あたしは迷いなく三蔵の来た道を戻った。
八戒の元へ行く為。
…………三蔵から離れる為、只それだけの為に。

 

 

 

人は何故『強さ』を求めるのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは、三蔵から離れる為に強さを求めています。

 

 

 

 

 

 

 

 

100のお題久々UPです。
今回は悲恋?片恋にして見ました。
背中を見守り続けるのは辛い事ですよね。
追い駆ける事も許されないなら尚更。

暗過ぎなくしたかったので、さっぱり目を狙いました。
そしたら微妙な所で切らなくてはならなく…(汗
ヒロインの視点で物を書くのは凄く好きです。
感情移入し易いので(緋桃がね
三蔵がどう思ってるのか不明ですが、ヒロインさんは少しずつ視線を前に向けてくれると良いですね…。