「悟浄の花って匂蕃茉莉だよね」
絶対そうだって。
にこやかに笑ったのは、俺が気になっていたヤツ。




<Yesterday today tomorrow>




「においばんまつりぃ?…何だそりゃ?」
聞き慣れない言葉。
偶に知らない言葉を使う。

って、俺の知らない事良く知ってるよな」
興味の無い悟浄にとって花なんてどうでも良い事。

「そう?只、コレだけは悟浄だと思ってるからね〜」
ニヤニヤして笑ってる時のは何か面白い事を見つけた時の顔。

「何で俺なの?」
さっきから言われている花なんて見た事も聞いた事も無い。
どんな花かなんて想像もつかない。

「花言葉が悟浄っぽい」
「花言葉……?」
悟浄っぽいと言われたのが花言葉。
気にならない筈が無い。
興味本位でついつい聞いてしまった。

「どんな花言葉なの?ソレは」
興味を見せなかった悟浄が乗って来た事が嬉しいのか、
更に深い笑みを見せる。
その笑みに悟浄はイヤな感じを受けたが、気になる事を放って置けはしない。

「ふふふ…実はね、『浮気な人』って花言葉」
人差し指を悟浄に向けて、深い笑みは不気味な笑みへと変わる。

「……浮気な人?!」
「うわーぉ、ピッタリ〜」
笑ってる癖に台詞は棒読みで、呆れてるんだかからかってるんだか…。

「ちょっと待て、俺の何処が『浮気な人』なんだよ」
講義をする悟浄は向けられている人差し指を振り払う。
振り払われた腕は力なく下へと落ちて行く。

「…何処って、全部でしょ」
悟浄が理解出来ていない事に吃驚した様で、
顔が「あんたそんな事も解らないの?!」
と訴えている。

「ひっでー、俺って結構一途よ?」
彼特有のふざけた感じの言葉遣いで、浮気な人を否定する。

「いちず〜?信じらんない」
如何にも遊んでますって雰囲気で何を言い出すこの男は!
そんな意味を含めて答える

「俺、好きなヤツ出来たから遊んでねぇし?」
サラリと驚きの言葉を吐く悟浄には目を見開く。

「悟浄の口からそんな言葉が出るなんて!」
相手の子可哀想…。
ボソッと口に出したソレを悟浄は聞き逃さなかった。

「は?何で可哀想なの?」
煙草に火を点けていた悟浄は其の動きを止めの方を向く。

「だって悟浄、浮気な人だもん」
未だ言うに悟浄は肩を落す。
煙草を吸う気にもなれず、
未だ長い煙草を灰皿に押し付け、火を消した。

「はぁ」
「溜息するとシアワセが逃げるって言わない?」
隣に座って顔を覗き込もうとする

「一体何時気付くかね…」
小さな願いは届かない。

「?なんか言った?」
隣で不思議そうな顔をしてるヤツが1番気になるのに、
相手はソレに気付かない。

「……如何したら伝わると思う?」
「言う」
マジメな問いに答え様としているは、
悟浄の言い終わる前に被って来る。
それが可笑しくて笑ってると、は怒り出して席を立とうとする。

「怒んなって」
「んな笑いながら言われても従えません!」
最もな発言に悟浄は苦笑した。

「また笑った」
そんな苦笑にすらは拗ねる。

「……その、花言葉の由来ってナニ?」
コレ以上怒らせては不味いと思ったからか、
悟浄は話題を変える。

「…咲き始めは紫なのに、2日くらいすると薄くなって、其の後白くなるから」
未だ少し拗ねて居るのであろう。
悟浄の目を見て話さない。

「だから浮気なんだ…」
悟浄の台詞に頷く。

「移り変わりを現してるんだって」
「じゃ、俺の花じゃねぇな」
そう言い切る悟浄は、移り変わったりしない、と言いたいらしい。

「完璧俺んじゃねぇって」
「如何してよ、絶対悟浄だって」
不毛な言い争いである。

「だって俺、ちょっと前から1人の事しか見てないし?」
気付かれてねぇから厄介なんだけどな。
等と言い、やはり否定する。

「じゃぁ、告れば?」
冷たく言って立ち上がる。

「遠まわしで気付かないんだぜ?如何すんだって」
照れ臭さもあってか、正面切って告白はしたく無い悟浄は
に良い案が無いか相談する。

「花言葉とか?」
「花言葉って決まってんだろ?でも俺らしいのが良いし」
注文の多い野郎だ…とぶつぶつ呟き、本を取り出す。

「コレとか?」
見せられた花言葉は、『私はあなたを愛する』

「…俺らしくねぇ」
「やっぱ?」
悟浄にも本を渡し、2人掛かりで探す。
出される物は、悟浄らしくない『愛の告白』ばかりである。

「ないねぇ……」
「ねぇ、な」
探して見るが、悟浄らしい花言葉は見付からず、飽きて来てしまった。

「にしても、悟浄が珍しく真剣ね」
悟浄ならさっさと告白してると思ったのに…。

「…なんつーか、言っても真剣に取って貰えねーし?」
言っても流されてしまう。
だから、真剣に取って貰える様に何か言葉以外の物を探して居る。
そんな感じだった。

「……いーなぁ」
「ナニが?」
「悟浄に愛されてるって感じじゃん?」
「愛って言われてもね…」
「私だって良く知らないけど、一般的にはそう言うんじゃない?」
話しをしながらも探して居る手は休む事無く動いている。

「あ!!これは?!」
が見付けた花言葉。
白いバラの花言葉。

「良いんじゃん?!」
「頑張れよ〜」
引っ張り出して来た色々な本を片付けながら、が言う。

「買って来るかな」
「行って来い」
は胸に刺さる異物を感じながらも、平常心を保とうとする。

一言残し出て行った悟浄の後姿が遠くに行くのを感じて、
何故かは泣いた。

「何で私泣いてんだろ…」
自問しても答えは出ない。
ただ、悟浄の後姿が目に焼き付いて離れない。

「バカみたい」
自嘲気味に笑って本の片付けを進めた。



「たでーまーっと」
30分後悟浄は真っ白なバラの花を10本程買って帰って来た。
真っ白なバラは綺麗に包装されていた。

「ほら、どーした?
の返事が無い事に気付き、顔を覗き込む。

「お前、何泣いてんの?」
頬を蔦って落ちる涙を拭きながら、頭に手を乗せる。

「………」
「おーい?チャーン?」
反応が無い。

「……で」
「は?」
小さな声で呟かれた言葉は、
直ぐ近くに居た悟浄にさえも聞こえないような大きさだった。

「……挙げないで」
「コレの事?」
バラの花束を指差しながら尋ねると、は小さく頷いた。

「どして?」
「……から、私…が欲しいから………」

がコレ欲しいって事は…」
良いワケ?

「欲しいの」
「俺、浮気モンじゃなかったっけ?」
「良いの、欲しい」
其の後悟浄からは何も帰って来なかった。
きっと、挙げる人が居るからだろう…。

「んじゃぁ、挙げましょ」
あっさりと返して来た事。
バラの花を差し出して、受け取らせる。

「…何で?」
驚いて顔を上げると笑った顔が瞳に映る。

「欲しんでしょ?」
だから、挙げるよ。
そう言われても、は理解出来ない。

「また買ってくるから?」
すっ呆けた答しか返せなくて、悟浄は笑い出す。

「違うって、元々お前に挙げるんだったの」
「………貰って良いの?」
当たり前。

「返さないからね」
「返さないでね?」
そう言って、2人で笑いあった。