雪が好きだった。
寒い中、ちらちらと舞う雪が…。
今も多分好きだと思う。



でも、雪の日は嫌い………。








<瞳に映る空>




寒い寒い雪は好き。
吐く息が白くて、手は寒さで赤くなってて……。
それでも白い雪が好き。



「なぁ、
悟浄と付合って半年、初めて二人で向かえる冬。
其の日の空は雲が太陽の光を遮ってた。

「何?悟浄」
並んで歩いて、一緒に入った行き付けの喫茶店。
落着いた雰囲気が好きで、良く一緒に入る。

今日も口には出さなかったけれど、二人の足は自然と喫茶店へと向かってた。
其処に着いてから、悟浄は何処か落着かなくて。
如何したのか何度も尋ね様としたけれど、答えてくれなさそうだったから聞かなかった。
丁度お茶の時間で、珈琲を呑みながら他愛の無い世間話をする。
それが、デートの帰りの日課だった。

「………悟浄?」
私が一生懸命話しても、悟浄は上の空で聞いていなかった。

「悟浄ってば!」
何度呼んだか、一番強く呼んだ後に悟浄は気付いた。

「悪ぃ…考え事してた」
さっきまで、普通に買い物に行ったり、デートを楽しんでいたのに…。
悟浄は俯いたままだった。




悟浄の様子も気になったが、少し放っておく事にした。
熱い珈琲は時間が経っていて冷たかった。



珈琲を呑みながら窓を眺めると、白い物がゆっくりと地上に降りたっていた。
ふわふわと風に舞いながら。

「雪だ!今年初じゃん!!」
只、雪が好きだったからはしゃいだ。
悟浄と見る雪が嬉しかったから。

…あの、さ」
俯いたまんまの悟浄が口を開いたから、窓から目線を外し悟浄を見てた。

「どしたの?」
あまりに暗い顔をしてたから………。

「俺……ダメなんだ……」
「ダメって何が?」
突然の言葉に質問の意味が解らなかった。

「俺、お前とは居られない」
「………」


驚いた。
それしかない。
だって、さっき一緒にでデートして話して遊んでたんだよ?

「な……んで?」
自分の意思とは別に、それを受け止め様としてるヤツがいた。

「…上手く言えねぇんだけど、合わないって言うか…………」
だんだん小さくなる悟浄の声。

「そっか、じゃしょがないよ」
笑えたと…思う。
自然に見えたかは別で。

「解ってたんだ、悟浄が遊びだったって事。
私がホンキだった事気付いて、悩んだんでしょ?」





解ってた。
そろそろ別れ話になる事も。
でも、知りたくなかった。





……悪ぃ」
「何で…悟浄がそんな顔するの?」
痛々しい顔をされたら、怒るに怒れない…。
何時もみたいに笑って言ってくれれば……そしたら、怒鳴って。
こっちから別れてやるって言えるのに。

「悪ぃ……」
「……今日は、未だ『彼女』でもいよね」
謝る事しかしなくて、悟浄が痛かった。




泣かない私も不思議だった。





「雪降ってるよ」
店を出て見ると、中で見てたのとは違って見えた。
大好きだった、雪の日が。
真っ白な雪が地上に降りて来るのを見るのが……好きだった。

「ぁあ」
「今日で最後だから、ちょっと付合ってよ」
悟浄の手を取って歩く。

アスファルトに落ちると消えてしまう雪。
そんな雪が降る中、悟浄を連れて公園へ来た。
登下校する子供達。
小さい頃広く感じた公園は、小さく見えた。

「この公園ね、小さい頃良く遊んだの」
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、雪の日も…。
ずっと一緒に遊んでた。

「だけど、何時からか遊ばなくなった」
前に来た時見た公園は、綺麗だったのに。
今は少し錆びれてて…。

「チョットだけ遊びたい」
公園の入り口で悟浄の手を離すと、
積り始める雪の中、遊具に向かって歩いた。


ブランコも滑り台も鉄棒もベンチも…遊具だけじゃなくて、
公園の中にある物が懐かしかった。


「悟浄!サヨナラ」
ブランコに座って、経ち尽くす悟浄に別れを告げた。
その言葉を言う為に何時間掛かったんだろう。
辺りはすっかり暗くなってて、街灯が辺りを照らしていた。

「…送ってく」
「良いよ、未だ遊んでるから」
「風邪、ひくぞ」
「大丈夫だって」
ゆっくり歩くブランコまで来て、手を伸ばす。

「ほら、帰るぞ」
「ヤダ」
「んでだよ」
「だって、悟浄とは別れたもん」
黙り出す悟浄を見て立ち上がる。

「何処行くんだ」
「滑り台」
「濡れっぞ」
「足で滑るもん」
「扱けるぞ」
「自分で起き上がれるもん」
階段を一段ずつ登って、滑り降りる。
何度か滑って、今度こそ帰ろうと決めた。

「じゃ、私帰る」
付合ってくれてありがとう。

「送るって」
「家反対じゃん」
「仮にも彼氏だぜ?」
「別れました」
「今日は未だ彼氏だろ?」
「『沙悟浄サン別れましょ』…これで完璧他人でしょ?」
マフラーを巻き直して公園を出る。

「最後だろ、送らせろ」
「イヤです、一人で帰れます」
「強情だな」
「結構です」
「……」
そうは言いながらも途中までは道が一緒で、二人並んで帰る。

「私、寄るトコあったんだ」
「何処?」
「ナイショ」
「んだそれ」
悟浄との付合いもコレでオシマイ。

「じゃぁね、バイバイ」
「……あぁ」
「ありがとう…………さようなら」
「また、な」
「ん、じゃ」
ゴメンね、またはないんだ。
家まで送って貰ったら、決心が鈍るから。
嘘吐いて、
公園に戻った。



雪の日は、公園が綺麗に見える。
その公園が好きだった。



「寒いなぁ…」
今日は雪の日なのに、綺麗に見えないよ…、
大好きな公園が………雪が見えない。

「雪は好きなのに、ゴメンね」






雪の日は好きになれなくなっちゃった。







雪の日は辛いな……。
好きだったのに、好きなのに、辛いよ………。






大好きだった、今でも好きだよ。
さよなら、悟浄…。






瞳に映る空は、私を独りにしてくれた。




卒業式の練習中に浮かんだ冒頭部分。
それをテーマに書き上げました。幾つか候補はあったけど、今市で…。
これは気に入ってます。
感想下さいな♪