<Thank you & Good-bye>













さよならって言う位なら初めから手を引かないでよ。
着いて行けないなら優しい言葉なんて言わないで。
期待してたのに裏切られた様に感じてしまうから。


























さんの怪我も良くなりましたね」

「ありがとう八戒さん」

妖怪に襲われた時に負った怪我を直してくれた彼は、翠色が良く似合う。
とても良く笑う人。

「明日には自由にしても大丈夫だと思いますよ」

…もう来ている。
残された時間は僅かしかない。

「ありがとう」

けれど精一杯笑わなきゃ。
あたしとは住む世界が違うのだから。
三蔵さんに言われた言葉が頭から離れない。

『怪我が治るまでだ』

きっともうあたしは別れなければならない。
あたしを必要としない町から離れたから。
もう少しだけ治安の良い場所へ連れて行ってくれるとは言ってたけど。
…この御時世に一体何処に治安の良い場所なんてあるの?

「今日はゆっくり休んで下さいね」

この人の笑顔は偽物じゃないんだろうけど。
あたしは誰を信じて良いのか解らない。
好きな男に騙されて、気付いたら町中から嫌われる存在。
何でこんな事になったんだろう。
そもそもあたしはあの男が好きだったの?
もうそんな事すら思い出せない。
あたしの記憶から徐々に消えて行く。
覚えている価値もないとあたし自身が言うかの様に。

?大丈夫か??」

ボーっとしてたから気付かなかった。
何時の間にか部屋に入って来てた悟空さんと悟浄さん。
この二人は羨ましい位仲が良くて兄弟みたいな感じ。

「バーカ、レディの部屋に入る時はノックしろよな」

そう言ってあたしの前に来てる悟空さんの頭を叩いた。
不意打ちだったからか悟空さんは涙眼になってた。

「悟空さん大丈夫?」

慌てて声を掛けたけどもうその時には二人とも喧嘩を始めたた。
本当に喧嘩を良くする人達。

「うるせえんだよ!黙れ!!」

ドアを開けた儘で喧嘩を始めた所為もあって、通りすがりの三蔵さんが二人の頭をハリセンで叩いた。

「だ、大丈夫ですか?」

未だベッドから起き上がれないあたしは遠くから見てる事しか出来なかった。
もの凄い音がしたから…。
けどもう驚きはしない。
慣れてしまった。

「ってえ〜」

慣れてしまったの…この温かな空気に。

「…怪我は平気か?」

なんとなく優しい気がするのは別れが近いからですか?

「はい、明日には自由に出来るそうです」

ありがとうございますとお礼を言って笑えば、三蔵さんは部屋から出て行った。

「もう大丈夫なの?」

「元気になって何よりだな」






































町から大分離れた空き家に来て三日目。
元々酷い怪我ではなかった。
わざわざあたしの為に足留めしてくれている。
明日にはあたしは元気になって別の道を行かなければならない。
誰も知らない見知らぬ町へ。
そう思うと夜は眠れない。
皆もう眠っただろう時間に部屋から出て空き家を後にする。
それはもう戻らないと言う意味なのか、唯眠れないからなのか…あたし自身解らなかった。
静寂しかない外はあたしを迎え入れてくれるだろう。
久し振りに出る外。
月明かりが眩しい位に輝き辺りを照らす。
まるで闇等ないとでも言うかの様に。

「綺麗…」

輝きは誰かを連想させる様な光。

「何してる」

静寂を消し去るかの様な鋭い声。
急に聞こえた声に驚いて後ろを振り返るとそこには、金色に輝く月にも負けない位綺麗な金糸があった。

「三蔵さんこそ」

高く高く昇った月が落ちて次に見る時は一人であろうと。

「散歩だ」

短い科白は何故だか逆に冷静さを取り戻させる。
もう会えないであろうと解っていても。

「本当にありがとう」

それには怪我を直してくれた事に対するお礼とあそこから助けてくれたお礼と。
全ての感謝を含ませた。

「お別れは嫌なの…だから、朝早くにでもあたしは此処を出ます」

目的地なんて何処にもない。
ゴールのない道へ。

「もっと一緒にいたかった」

それは叶う筈のない望み。
もう部屋に戻って荷物を纏めなければならない。
朝では時間がない。

「これが最後です……三蔵さん、さよなら」

後ろを振り返る事すら許されない。
大丈夫…大丈夫、未だ淡い恋心は早い内に消えてくれる。
きっと大丈夫。
大丈夫…。






































「…こんな思いをするなら、逢わなきゃ良かった」

誰に届くでもない呟きは虚しく部屋に響き渡る。

「初めから…手を伸ばさないでいれば」

きっと…こんな思いもしないで済んだ。
今は唯、消えない思いに涙を流す。
白んで行く空は確実に別れを知らせる。
朝焼けの紫が眼に映る頃にはこの部屋を出よう。
そして涙を堪えて前を向いて、夜が明ける。










































尻切れトンボの様です。
ホントは続きを書こうと思ってたんですけど、これはこれでも良いかなぁと。
如何でしょう。
機会があれば続きでも書きたいなぁなんて。
まぁ、周りの感想によりけりですがね。
久々に書いた小説で明らかに誕生日ネタではありませんが、誕生日の記念にと言う事で。
スランプは恐ろしいですね。

兎に角三蔵ハピバです!!
12月末日までフリー配布です。

200/11/29