<月光>
あたしには父さんも母さんもいて不自由な暮らしなんてしてない。
本当にそう思う。
けど、そうじゃないの。
「八戒今日は野宿?」
別に何か大きな切欠が有った訳じゃない。
ただ何時の間にか三蔵たちと一緒に旅をしてた。
如何してかなんてもう忘れてしまった。
「えぇすみません」
もう何度野宿を迎えたか覚えてもいない。
一々気にする様な神経も生憎持ち合わせてはいない。
「腹減ったよ〜、八戒ぃ」
「お前よ、未だ夕方だぞ」
お腹を押さえて八戒に言う姿を何度見たか…。
悟浄に突っ込まれる悟空の姿。
こんな何気ない遣り取りも何時の間にか見慣れてしまった。
「もう少し我慢して下さいね」
喧嘩が始まる前に八戒が止めて、三蔵が横目で此方を見ながら新聞を読んでて。
八戒の手伝いをしながら他の4人の姿を見るのも、もう何度目だろうか。
「非常食ばっかで飽きたなぁ」
「じゃ、貰うな悟浄」
「ざけんな!」
「何だよ〜」
こうやって続く2人の喧嘩。
何時妖怪が襲って来るか解らないからその分、今を楽しんでる。
あたしはそんな彼らの生き様が凄く好きだ。
「は今日此処で寝て下さいね」
ジープには変身して貰った儘で後部座席に寝る様指示される。
野宿になった日は大体がそうである。
少し離れた所であたしはジープの上で眠る。
皆には申し訳ないがあたしに拒否権はない。
平気だと言っても聞き入れはしないし、面倒になるだけだともう解っている。
「ありがとう」
笑って毛布を受け取りジープの後部座席へと乗り込む。
空には雲1つなく澄切った空気が辺りに広がっていた。
輝かしいほどの星空が妙に切なくて涙が溢れそうになった。
今はもう無いかもしれない星を思って涙が出た。
其の儘涙を拭いもせずに横になった儘空を見上げた。
月は満月で妖しげに輝く。
満月ならば金色の目映い光なのに、今日は紅い月。
「人が狂うのはこんな月夜かな…」
その月夜に酔って狂ってしまいたかった。
あたしも…。
神々しい程に光り輝く月に嫉妬にも似た様な感情を初めて抱いた。
「眠れないのか」
態々三蔵があたしの元までやって来た。
ほぼ無に近い事。
「如何したの?三蔵こそ」
驚いて起き上がって三蔵を見れば三蔵の金糸の髪が月光にすら負けじと輝いていた。
三蔵から眼を離せないで居ると何故か先程よりも沢山の涙が溢れて来た。
その涙は止まる術を知らず只あたしの頬を伝って流れ落ちる。
此処まで人を美しいと思ったのは初めてだった。
「何泣いてやがる」
三蔵の眉間には何時もの様に皺がよっている。
音の無い夜の闇。
「……別に」
泣いてる理由はあたしにも良く解らなかった。
只三蔵を見たら涙が止まらなかった。
止まる事の無い涙を三蔵は止めもしないで見ていた。
あたしは涙を拭わずに三蔵と三蔵の後ろで輝く月を見ていた。
月の光は紅く紅く。
周りの闇を打砕くかのように光輝き続けていた…。
鬼塚ちひろの月光を聞きながら書上げました。
大好きです!月光v
本当はこの話はシリアス死にネタにする予定だったんです。
シリアス風味は漂わせて居る物の、死にネタは何処で間違えたのか…。
でも終わり方は結構気に入ってます。
短いですねぇ…相変らず。
やっとこさ最遊記夢です。
お相手は…三蔵様?
1万打記念ですお持ち帰り自由。
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2005/07/20