<Voice>
ガタン
バタバタ……
雨の降る夕方。
テニスを中断し帰宅途中の氷帝テニス部正レギュラー陣。
家の方向が同じ跡部、忍足、宍戸、鳳。
傘をさし特に会話もなく歩いていた。
本当に偶然だった。
人通りの少ない道に入ると大きな音が聞こえて来た。
何事かと思い4人が見ると跡部には考えられない位小さなアパートの2階から少女が駆け下りて来た。
後ろには少女の母親であろう人。
母親は大声を出して少女を追い掛ける。
玄関先で母親に殴られていた少女は逃げ出した。
逃げ出す少女を母親は追い駆け様ともしないで家の中へ戻って行った。
「ちょっ…ヤバいだろ!」
宍戸が傘を置いて少女の元へ走り出す。
必死に階段を降りた少女の息は上がり肩で息をしていた。
宍戸に続き鳳が追い掛け、跡部と忍足もそれに続いた。
駆け寄った宍戸は少女の手前で立ち止まった。
足を痛めている様だったが其れよりも早く逃げようと必死だった。
「大丈夫か?」
階段を降りた後も走り出そうとする少女の手を掴んだ。
驚いた事に少女はキャミソールに短パンと言うラフな格好で家を飛び出していた。
靴も何も履いていない。
少女は宍戸が母親の仲間と思ったのか振り解こうとする。
「どわっ」
「大丈夫ですから落ち着いて下さい」
癖一つ付いていない長めの髪を振り乱して逃げ様とする。
少女は唯怯えるだけだった。
「こら病院やな」
落ち着き自分の携帯を取り出し電話を掛ける。
「いや…家に連れて行く」
跡部は携帯を持つ忍足の手を押さえ自分の携帯で家に連絡を入れる。
そんな後ろでのやり取りを耳にし、少女は意識を手放した。
「お、目ぇ覚めたん?」
少女は広い広いベッドに寝ている自分が何故此処にいるのか…理解出来ずにいる。
「起きたか」
ドアを開け入って来るのは先程、意識を手放す前に見た人達。
「母親は此処にはおらんよ」
その言葉に少し安心したのか少しだけ緊張を解いた。
「傷痛くないですか?」
ふと少女は自分の傷が手当てされている声に気付く。
首を横に振る事が精一杯だった。
「名前だけ教えて寝てろ」
その言葉に口を開く少女だが、その口から言葉が生まれる事はなかった。
跡部の家に泊まる事になった少女は一人部屋に残されていた。
忍足、宍戸、鳳は明日も朝練がある為帰宅した。跡部は少女について医者と話している。
「精神的ストレスから来る物らしい」
ボーっとしていると何時の間にか跡部が部屋に戻って来ていた。
傷を手当てしてくれた医者は、母からの虐待などから来る精神的な物だと言った。
精神的な物…と言う事は、何時治るか解らない。
そう言う事だ。
「名前は…」
そう言って渡して来たのは紙とペンだった。
筆談ならば出来るだろうと跡部は踏んだのだ。
『』
は跡部から紙とペンを受け取ると短く書いた。
「俺は跡部景吾だ」
もう寝ろ。
そう言って跡部は部屋の灯りを消し部屋を出ていった。
名前以外に何も聞かれる事はなかった。
朝、何時もと違うベッドで目が覚めた。
何時よりふわふわのベッドに枕。
暖かくてもう一度眠りに付きたかった。
寝返りを打つと足に違和感を感じた。
「起きたか」
ドアの開く音と昨日、眠る前に見た男性がいた。
「飯は食えるか?」
起き上がれないでいるあたしに手を貸してくれる。
何故?
あたしなんか庇っても意味がないのに。
「痛むのか?」
不安な顔をするのはどうして?
否定するのも忘れて顔を見上げた。
ベッドの上に起こされてあたしを覗き込む青色の瞳に釘付けになってた。
「立てねぇな…」
ふとあたしの傷を思い出して彼は持って来させると言った。
あたしは慌てて彼の服の裾を掴んで首を振る。
泊めて貰ったと言うのにわざわざ食事を運んで貰う等出来ない。
そんな我が儘など出来る筈がない。
必死にベッドから立ち上がろうとするが、足が痛くてなかなか思う様に行かない。
「…無理するな」
優しくて大きな手があたしを抱え上げた。
吃驚して目を見開くが構わずに部屋を後にした。
自分で歩くから…そう彼に伝えたいけど、伝える術もない。
「大人しくしてろ」
あたしに出来る事は紙彼の邪魔をしない様大人しくするだけ。
広い廊下を黙々と歩く彼の横顔はとても綺麗だった。
食事が運ばれ、彼と2人だけで食事を取る。
多少痛みはあるが、捻挫の為に直ぐ直るだろう。
食事は無理にでも食えと彼は言った。
綺麗なリビングにパジャマのあたしは少し恥ずかしかった。
あたしの前に座る彼は食事をするのも綺麗だった。
「食えるか?」
あたしがボーっとしているのに気付き彼は気を配る。
こくんと頷くと彼が笑った。
茶色彼の髪がとても美しかった。
Voiceは全6話です。
此れを書上げた時にはLiverが未だ終っていなかったので大分経ってからのUPとなります。
取敢えず跡部長編です。
色々と加筆修正してますが意味不明なのは私の文才の無さです。
2005/09/22