<Voice>
朝、俺が部屋の扉を開けるともう既に起きていた。
名前をと名乗る女。
年は俺と同じ位だ。
朝食を取ったのは朝6時。
朝練のある俺が何時も取る時間。
もしも起きていなければそれで良いと思っていた。
アイツが食べた物と言えばスープにサラダ。
両方共量は少な目だった。
勧めたがそれ以上食べる気配はなかった。
無理矢理食べる雰囲気ではない為一度勧めただけで終わった。
アイツが喋れない事も有って会話はない。
俺が朝練に向かう時間になるとアイツは慌てた。
紙には
『それまで何をしてれば良い?』
と書かれていた。
「部屋で寝てろ」
静かに言えば小さく笑った。
それが何の笑いか、俺には解らなかった。
「跡部、あの子喋ったか?」
学校に着くと忍足が聞いて来るのはアイツの事。
皆同じだ。
宍戸も鳳も。
話に着いて来れないメンバーは興味を持ったが話様な内容ではなかった為言わなかった。
俺以外の奴はきっと話ているだろうが。
部活中も授業中も気になるのはアイツの事ばかり。
未だ家に居るだろうか。
足は大丈夫だろうか。
他にも知らない事が頭を支配する。
気になって仕方がなかった。
「監督、今日の部活早退します」
気になる事は止められない。
こうなれば家に帰って聞いてみるのが一番だ。
テニスコートにいる監督にそう伝えると監督は何も聞かずに許可した。
「跡部帰るのか?」
「あぁ」
俺が部室に戻る途中宍戸に呼び止められた。
「そうか」
それだけ言って鳳と一緒にコートへ向かった。
「跡部?」
扉を開けるとラケットを手にした忍足。
此から部活に行く。
制服の儘の俺を見て着替えない事を悟ると忍足は俺に言った。
「泣かしたらあかんよ」
ヘラヘラと笑う忍足を無視して鞄を手に取る。
樺地に帰る事を伝えコートに向かわせる。
未だ部室にいる忍足に早く行く様促す。
「はいはい」
ヒラヒラと手を振り部室を出て行く。
忍足の言葉が俺の頭に入って来る。
振り払う様に扉を開け部室を後にした。
「おかえりなさいませ」
長年此の家に仕えている爺は何時もより早い帰宅に驚いた顔を一瞬した。
「アイツは?」
俺の言葉に納得したらしく微笑んだ。
「お部屋にいらっしゃいます」
鞄とジャケットを脱いで俺はアイツの部屋に向かった。
「入るぞ」
入る前に一言だけ言うと扉を開けた。
返事が来る筈等ないのだから。
扉を開けれとベッドの上に起き上がっている。
今は大分調子が良いらしい。
「昼は食べたか?」
頷きベッドのサイドテーブルにある紙とペンを取り出した。
あとべさんは学生。
そしてお金持ち。
綺麗な服に綺麗に掃除された各部屋。
広いリビングに執事さんにメイドさん。
…そして何よりも、あたしを置いてくれてるのだから。
感謝しても仕切れない。
あとべさんはあたしを心配して帰って来てくれた。
そう思っても良いですか?
きっと部活とかも有った筈なのに、軽く息を乱して来てくれた…と。
『頂きました』
筆談は時間が掛かるから、極力短く済む様に心掛ける。
あとべさんの時間を裂いてはいけない。
「そうか」
何時も…と言っても未だ1日もいないけれど、あとべさんはなかなか笑わない事に気付いた。
あたしとあとべさんは正反対の生活をして来たのに、心は近い気がした。
「傷は?」
ふとそんな事を考えて気を取られているとあとべさんが口を開いた。
『大丈夫です』
薬代はどうやって返せば良いか。
そんな事もあたしの頭をよぎった。
「金の事は心配するな」
丁度良いタイミングであとべさんがそう言うから吃驚して顔を見た。
やっぱりと言う様な顔をあとべさんはしていてやっと填められた事に気付いた。
「良くなる迄此処に居れば良い」
何でかなぁ…あとべさんはあたしの心を読んだかの様に言葉を生み出す。
お母さんに詰られても絶対に泣かなかったのに、あたしの眼からは涙が溢れた。
必死に止め様とするけど頬を伝う涙は止めどなく流れて行った。
「ほら」
あたしが泣いてるのを見てハンカチを差し出してくれた。
何であとべさんは、あたしなんかに優しいのだろう。
何であたしは今、あとべさんの前で泣いてるのだろう。
未だ解らない。
あとべさんは泣き止む迄あたしの隣にいた。
あたしはそんなあとべさんの優しさを感じて又泣いてしまった。
こんなに泣いたのは初めてだった。
そして誰かに泣いてるのを見られるのも。
「夕飯はどうする?」
泣き腫らした眼を執事さん達に見せてしまっては余計に心配と迷惑を掛けてしまう。
そう思って首を横に振った。
「執事達は席を外して貰うぞ」
又、あとべさんに心を読まれた。
あたしの返答なんて聞きもしないであとべさんはあたしの手を引いた。
今朝よりは良くなっている為自分の足で歩いてリビングへ向かった。
ゆっくり歩いてるあたしなんて放って置いても良いのにあたしが来る迄あとべさんは待ってた。
時々あたしに手を差し伸べてくれた。
人に優しくされたのは、あとべさん達に関わってからが初めてで、酷く緊張もしたし照れ臭かった。
リビングに着くと料理が運ばれ、全て運んだらメイドさんも執事さんもリビングを出て行った。
あたしの席の近くに濡れたタオルが置いてあった。
あとべさんと食事をするのは2回目だったけど、2人だけで食事をするのは初めてで…。
あとべさんは綺麗にナイフやフォークを使えるのにあたしは四苦八苦していた。
それを見てあとべさんは笑った。
声を上げてはいなかったけど、あとべさんの笑った顔に見惚れていた。
Voice2話目です。
徐々に収集が付かなくなって来て、取敢えずやりたい放題やってしまった感が此処から出て来てます。
本当にやばいですが、お付き合いの程ヨロシクです。
2005/09/22