<Voice>














あとべさんの所に戻ってからあとべさんは一度もあたしの顔を見ない。
それが何だか悲しくてやっぱり戻らない方が良かったんじゃないか不安になる。
あたしといたくないんじゃないかって…。
そう思うと涙が出そうになる。
何でこんなにもあとべさんの前では泣きたくなるのか…自分でも解らなかった。

「急にいなくなるな」

俯いてるあたしの顔を上に向けてあとべさんはあたしを見た。
あとべさんの方がずっと背が高いからあたしはあとべさんを見上げる。

「解ったのかよ」

ボーっとあとべさんを見てると怒った様な声でもう一度言った。
慌てて頷くと満足そうに笑った。
 『ごめんなさい』
と紙に書くとあとべさんはあたしの頭に手を置いて軽く2、3度叩いて行ってしまった。
此は、気にするなって事かな…。
振り返ってあとべさんを見ると機嫌良さそうに歩いてた。
あとべさんの触った頭を撫でたら何でか笑みが零れた。

























「今日の練習も見に来るか?」

あの日からあとべさんはあたしに練習を見に来るか聞く様になった。
けどあたしは首を横に振って行かないと意志表示をする。
何度となく聞かれたけど行く気にならない。
あとべさんの仲間が嫌だとかじゃないけど、出掛けるとあとべさんの近くにいられない様な気がした。
あとべさんは綺麗だし、テニスも凄く強い。
氷帝学園ってお金持ち学校に通ってて其処で成績優秀だって聞いた。
他にも学校の中で一番モテる人だとか。
生徒会にいるだけで凄いのに会長だって言ってた…。
…そんな人があたしなんかといちゃダメだよ。
中学卒業してから高校もろくに行ってないし。
自分とあとべさんの差を見せつけられそうで嫌。

「顔色良くないぜ」

俯いてるとあとべさんがあたしの前迄来てあたしの顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?」

一度頷くとあとべさんは不安げな顔をした。
けどその後学校へ行く支度をして行ってしまった。
あとべさんが学校に行くと言いようのない不安が押し寄せて来る。
逃げ出せない暗闇。


























「出掛けるのか?」

あとべさんが帰って来てコンビニに行く事を許して貰った。

「気を付けろよ」

あとべさんは忙しいからあたしとは一緒に来なかった。
1人で歩くのは久しぶりで不思議な感じがした。

ちゃんやん」

コンビニで雑誌を立ち読みしてると後ろからおしたりさんの声が聞こえた。

「久しぶりやな」

一緒にコンビニを出ると近くの公園に案内された。
公園のベンチに座るとおしたりさんはあたしに飲み物をくれた。

「紅茶で良かった?」

買ってくれたのはおしたりさんなのにあたしに最後迄気を使ってくれた。

「…この前はごめんな」

あたしは話せないしおしたりさんも静かに珈琲を飲んでて、周りは夕日を背負いながら帰宅する子供達でいっぱいだった。

「せやけど、あれ嘘やないから」

と言ってあたしを見た。
あとべさんとは違った香りのする人。
声も表情も仕草も…。
全てが違う。

「泣かんといて」

そうして差し出す手は流れ出るあたしの涙を拭った。

「何してんだ」

子供達は既に皆いなくなってて其処にいたのはあとべさんだった。

「丁度ええ…俺が好きやねん、跡部」

「本人に言ったらどうだ」

あとべさんは何時もみたいに眉間に皺を寄せてる。
けど、あとべさんの表情は解らない。

「ならは俺ん所に連れてくな」

あたしの手を引き歩き始めるおしたりさんにつられ歩く。
後ろを振り返ってあとべさんを見たけどあとべさんは逆方向に歩いて行ってしまった。






















おしたりさんの部屋は広いマンションだった。

「適当に座ってて」

そう残しておしたりさんは行ってしまった。
残されて周りを見ると綺麗に揃えられた家具に整えられた部屋。

ちゃん座ってて良かったんよ」

運ばれて来たのはマグカップに入った紅茶。

「どうぞ」

手渡され受け取って座る。
一口飲むととても美味しかった。
あたしが飲むのを嬉しそうに微笑んで見ていた。
あとべさんとは…全部違った。



























「起き…」

もう此は習慣なのだろうか。
朝起きてのいた部屋へ向かう。
ドアを開けていない事を思い出し苛立つ。
昨日、忍足の家に行った。
の事より朝練の準備に行かなければ。
そう言い聞かせて家を出た。
気にしない様に…勉強と生徒会……部活に集中して。
























何故こんなにも苛立つのか…。
朝練に出て来なかった忍足に腹が立った。

「おい朝練に出なかった理由を言え」

午後練の前の部室で忍足に会い問い質すと何食わぬ顔で俺を見た。

「あぁ、がなかなか離さんと遅刻したんや」

その表情からは何も掴めない。
何も言わずに俺は忍足のいる部室を出た。
何時の間に忍足はの事を呼び捨てにした?
考えないと決めた心とは裏腹に頭は何時でもを描く。




















?何してるん?」

驚いた忍足は声を上げの元へ向かった。
着ていた服は俺があげた服ではない…きっと忍足があげた物だろう。
そっちを見るのも嫌で避ける様に部室へ向かった。
その後の事は知らない。

























部室へ行ってしまったのはあたしを避けてる証拠?
あたしはずっと迷惑で邪魔だった。

「どないしたん?」

優しい言葉が痛い。
ハッキリしなかったあたしがいけないのに…。
解ってても言うおしたりさんが辛そうにあたしを見てた。

「……行こか」

何処へ…?と思うより早くおしたりさんはあたしの手を握って歩き出した。
行き先はあとべさんのいる部室。
其処に着く迄に決めなければいけない。




























何してん俺。
何で跡部を助ける様な事してん…。
何時もそうや、が泣きそうな顔をするんは跡部絡み。
俺は完璧邪魔者。
せやけど、気持ち伝えてもええやろ?
次はちゃんの番や。
跡部に気持ちを伝える。

ちゃん、俺ちゃんが紅茶飲んでる姿が好きやったよ」

部室へ向かう途中に足を止めちゃんの手を離した。

「笑て、跡部の隣で」

君を笑顔で送り出せたんやろか。
大きく頷いて前へ進む後ろ姿が大きく見えてん。


























おしたりさんは優しい。
自分の気持ちを言って、あたしの気持ちを知ってそれであたしを後押しする。
だからあたしもおしたりさんに顔向け出来る様にあとべさんに言わなきゃ。
















深呼吸して後ろを振り返るとおしたりさんがいた。
最後迄あたしを見ててくれる…。
ドアノブに手を掛けてゆっくり扉を押した。
中にいるあとべさんを探して。






























あぁ、忍足は貧乏くじを引くタイプだと勝手に思い込んでます。
でも其処が好きですたvV
次でラストです。
うーん終わりが少し短い様な気がします…。
2005/09/22