Voice












ドアをゆっくり開けると部室の真ん中にある机であとべさんは仕事をしていた。
あたしが入って来た事に気付いてるのに見向きもしないで仕事をしてる。

「何の用だ」

声だけ向けられ手は止めないしやっぱりこっちを見ない。
あとべさんの顔を見なくなってどれくらい経ったんだろう。
今迄差し出されてた温かい手が傍になくなってどれ程寂しかっただろう。
おしたりさんは優しい。
だからこそその優しさに甘えちゃいけない。
重く動かない足をあとべさんへ向ける。
そしてやっとの思いであとべさんの向かいの席に座った。
一瞬あとべさんの手が止まった気がした。
あとべさんに紙を渡してそれを読んでくれるのを待った。
確かにあとべさんは読んだけど丸められて捨てられた。
ガタンと音がするとあとべさんはあたしを置いて部室を出て行った。
決定かぁ。
少し投げやりに部室に残ってるとおしたりさんの声が聞こえた。
部室を出て見るとおしたりさんはあたしを呼んでた。

「何してん!?追い掛けぇちゃん!!」

何時ものおしたりさんと違って必死に叫んでる。
走ってあとべさんを追い掛けるけどあとべさんに届かない。

……

声が出なくて泣きそうで、必死にあとべさんを呼んだ。
声が出る筈はないのに。
気付かないであとべさんは進む。
呼ばないと解らない。
追い掛けるのはあたしだから。

「あ……さんっ!」

綺麗な声な訳がない。
ずっと話していなかったんだし、嗄れた声で必死に呼んだ。
出ない声を出そうとしてるのもあるのか、息が上がる。
それでも叫んであとべさんを呼んだ。

っあとべさん!」

今のがあたしが出せる精一杯だったんだと思う。
もう声すら出ない。
涙が溢れた。
下を向いてしゃがみ込んで泣いた。

「バァカ」

顔を上げるとやっとあとべさんを見れた。
あとべさんの匂いがしてまた涙が出た。

「泣くな」

抱き締められてあとべさんの腕の中に収められる。
流した涙はあとべさんのシャツに染み込んでく。
それが気になって嫌だったけど、あとべさんは気にしないであたしを強く抱き締めた。
髪をといてくれる指が温かい。
あとべさんの匂いがする。
唯抱き締められてるだけだったけどあとべさんの匂いがして、あとべさんのシャツを握った。

「ごめなさ……っ」

言える言葉はあとべさんへの謝罪。
さっきの声が嘘みたいに今あたしの声は掠れている。
けどあとべさんを呼んで叫んでいた時よりも気持ちは穏やか。

「バァカ

あとべさんの声は優しくて心地良かった。

好きだ」

耳元で言われてあたしは吃驚した。
唯嬉しかった。






















『声が出なくて悲しくて、切なくなるくらい、貴方が好き』































さてさて、跡部に宛てた手紙にはなんと書いてあったのか
ご想像にお任せしますv
最後の言葉が書きたくて考えた小説ネタでした。
最後の話が何だか微妙で尻切れトンボみたいになってしまいましたが(汗
丁度別の話で考えていた設定とリンクさせてこの小説『Voice』を書上げました。
全ての話を携帯で打ってたのでPCで纏めると大した量では無いんですけど、携帯は12話近くになってました。
その後加筆修正をかなり加え、やっとこの形で纏まりました。
UP
までに時間が掛かってしまいましたが、Liver trialが書上がるまで絶対UPしないと決めていました。
未だ書き終わっていないLiver trialを早く終らせたいです。
2005/09/22