〜場所〜
「三蔵のバカぁ!」
それだけ叫んで私は走って逃げた。
信じられないって気持ちより、
何で何も言ってくれないのかってそれが、
………一番辛かった。
仕事があるのは解ってる。
でもさ、今日はオフだって言ってたじゃん。
久しぶりにデートしようって。
二人でデートすんの何ヶ月ぶりだと思ってんの?
三蔵が社長だから、出掛け先で仕事関係の人に会うのだって仕方ないよ。
でもさ、女の人に会った時に三蔵は何で私の事聞かれて、
彼女って答えてくれないの?
私は三蔵の彼女じゃない?
家に帰れる気力何か沸かない。
きっと、私はもう三蔵に逢えない……。
走って逃げて来て、
でも三蔵は、追い掛けて来なかった。
家から離れた公園のベンチに座り、今日起きた出来事を一人静かに思い出して居た。
未だ日も落ちない公園で子供達は楽しそうに遊んでる、私とは正反対に。
何時までも笑わない。
笑えないままでずっと下を向いていた。
考え様にも頭が働かない。
『人はホントに哀しい事があると泣かないんだって』誰かが言ってた言葉。
今の私にピッタリだ………。
『思いっきり笑った後、ゆっくりと哀しみが込み上げるんだって』
私はなんか、涙も哀しみすらも込み上げて来ないよ、突然過ぎて。
ずっとこの言葉が頭から離れないや。
私、泣きたいのかな?三蔵が、私を裏切ったって。
……………泣き、たいのかな?
「おい」
あぁ、何時の間にか日が暮れてる。…家に帰ろう。
「………おい」
哀しみも込み上げないし、やっぱり涙も出ないよ。
三蔵は、私の何だったんだろうね。
「!」
ほら、三蔵の声まで聞こえて。
?……って!?
「三蔵?」
気付かなかった。三蔵居たんだ……。
「おい、何勝手に逃げてんだよ」
眉間の皺が何時もの倍だ。
うっすら汗を滲ませて、私の事探してくれたの?ねぇ三蔵。
沈みきるか、きらないか辺りにある夕日が三蔵の髪を引き立てて、綺麗。
ずっと眺めて居たい。
「三蔵、私さ泣かなかったよ。……泣けなかった」
三蔵の瞳は確り私が映ってる。
私の瞳には、三蔵が映ってる?
「……何がだ」
「本気で哀しいと人は笑うって、それから泣き出すって」
私は笑えなかったし、泣けなかった。
そして何より、三蔵を信じられなかった。
「………だから何だ」
だんだん静かになってく公園の周りの景色を私は三蔵と見てる。
三蔵は見てるの?
「別に、ただ私には無理だったな。って」
三蔵は見てない。私と同じ景色を見ようとはしてないんだ。
だから、私は三蔵の瞳に映らない。
「ンな事しなくて良いだろ」
「どうして?」
三蔵には解らないんだ。三蔵の視界に入りたがってる私じゃダメなんだよ。
「お前、前にゲームで『リセットすれば戻れるゲームは良い』って言ってたな」
つい先日、三蔵と過ごした時間で、
私がなんとなく話した話題を持ち出された。
「言ったよ」
「俺はそうは思わねぇな」
私も三蔵も互いを見詰めたまま沈黙が訪れた。
「……何でよ」
私はゲームみたいに、『間違えたら初めからやり直せる。』
それに憧れたんだ。
何事も無かったかの様にやり直せれば、今だって………。
「お前は馬鹿か?」
呆れた顔で私を見下して溜息を吐く。
その仕草が私を疵付けてるの知ってる?三蔵。彼方はすぐに私を疵付ける。
「ゲームは初めからじゃねぇと、やり直せねぇんだよ」
「当たり前じゃん、『やり直す』んだから」
三蔵が言ってるのは普通の事じゃん。私が望んでる事だよ。
「俺等は初めからじゃなくて、十分だろ」
その言葉だけ残して私を置いて行こうとする三蔵。
『初めから』じゃなくて十分。
まだやり直せるって取って良いの?
「ねぇ、三蔵それってさ」
さっきの言葉の本当の意味を知りたい私は、三蔵の少し赤くなった顔を見て吃驚した。
「………三蔵?」
「……うるせぇ、簡単だろう」
照れ隠しでもするかのように、キツイ台詞を吐く。
「言ってくれなきゃ解んないもん」
ちょっと意地悪っぽく言うと、三蔵は私を抱き締めた。
「今からでも十分直せるだろ」
暖かくて優しい腕の中は、心地良くて、安心出来た。
「傍に居ろ」
「三蔵、これから外で人に会ったら私の事紹介してよ」
「解ってる。彼女のだろ」
小さく小さく耳元で呟かれた言葉と、私が一番言って欲しかった言葉。
三蔵が抱き締めながら言ってくれ、私に安心と笑顔をくれた。
泣かなかったのは、三蔵が来てくれると解ってたからかも知れない。
哀しくなかったのは、無意識に三蔵を信じていたからかも知れない。
「ねぇ三蔵、彼方の腕の中が私の居場所だから、私だけの居場所にしてよ。」
肩に顔を埋め、最後の不安を口にした。
その言葉を口にするだけで、震えだした私をキツクキツク抱き締めて、
「当たり前だ。だけだからな」
私だけに言ってくれた。
たった少しのいざこざで拗れた仲を治すのは、互いの心と言葉。
私を疵付けるのは三蔵で、
私を嬉しくさせるのも………三蔵。
駄文を二つも受け取ってくれるとは思わなかった。。。
優しいです!これからもヨロシクお願い致します愛染さん♪