「ねぇ三蔵」







「私が死んだら、土に埋めて」


また変な事を言い出した。
何時もの事だと割り切って、無視出来れば問題は無かったのかも知れない。

あいつは時々、不可解な事を口にする。
コレも、それの延長上のモノだろうか…。

「……」
何も答えないで、ただじっとしている俺にあいつは言い続けた。

「私はね、ドナーになる気はないの」
ドナー……丁度テレビを点けていて、そのドナーについての特集を見ながら、
その瞳の焦点は定まっていない。

「だから何だ」
コレ以上一人で話させると、あいつは何時も戻って来なくなる。
相槌を居れて、会話をさせないと、あいつは…。

「だからね、私は死んでも誰かに私の物をあげたくないの」
テレビ画面からは目を逸らさない。
薄暗い電気の点けていない部屋で。
夕日が沈み、夜が辺りを包む町で…。

「別に、ドナー移植について批判してる訳じゃないの」
俺に向けられている言葉なのに、何処か遠くに聞えた。

「…じゃぁ何なんだ」
俺は、あいつを見ていても。
あいつは俺を見ていない。
まただ…。
あの時と同じ……。

「うーんとね、何て言えば良いのかな…」
俺の質問に答える癖に、俺の方を見もしない。
普段なら絶対にありえない事だ。
寧ろ逆の立場で、俺があいつに怒られる。

「私は死んでも私なの」
「んなの、当たり前じゃねぇか」
口調は何時もと同じで他の奴等が見てりゃ、気付かねぇだろう。

「そうだけど、生まれてから死ぬまで私は私なの」
だから、そのままで居させて欲しい…。

あいつはそう言って、テレビを消した。
音のなくなった世界。
沈黙、静寂…。

「死んでも私の物なの」
全部全部私の物…。

勝手に消して、何処かへ行こうとする。
俺はそれを止めた。
こう言う状況のあいつは、一人にさせてはいけない。

「お前は、自分の物を誰にもあげたくねぇんだろ?」
手首を掴んで、あいつの座っていたソファにもう一度座らせる。

「そ、例えばそれで一人の命が助かったとしても」
私の物は誰にも渡さない。

「…何故そう思った?」

「だって三蔵、三蔵が辛いじゃない?」

 

私は三蔵の後に死ぬ気はない。
残されるのはもう懲り懲り。
だから、三蔵を残して私は死ぬ。
そしたら、挙げた人の中で私はまた生き続ける。
三蔵がイヤでしょう?
私は誰にも渡さないの。
三蔵にも挙げないのに如何して挙げなきゃいけないの?
だから…、だから私はドナーになりたくない。

 

本心は隠して、照れ臭くて未だ言えないから。
「心は身体全体に染込んであるんだ、って聞いた事がある」
三蔵に握られた手を握り返して顔を上げる。

「知らないヤツに挙げるくらいなら、三蔵に挙げるって」
さっきとは打って変わって明るい表情。
ケラケラ笑いながら三蔵を挑発的な瞳で見上げる。

「当たり前だろ?」
フンっと鼻で笑いながら三蔵はの手を引っ張り、
自分の方へと引き寄せる。

突然引っ張られたはバランスを崩して三蔵の胸へと倒れ込む。

「随分自信満々ね」
倒れたまま三蔵に体重を預けて笑い続ける。

抱き締められたままの体勢で不意に三蔵から零れた言葉。
TVを見ていたの表情はすっかり何時もの明るい表情へと戻っていた。
三蔵の一言がの感情を大きく左右する。
例え踏み外しそうになっても、三蔵が誘導してくれる。
三蔵の一言が…………。






の事を誰にもやる訳ねぇだろ?』










只嬉しかった。
その、たった一言が………。
きっと私が死んでも、私は私で要られると思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三蔵様のお話しを少し前に作り、最近引っ張り出して来ました。
まず、暗いです。甘くないです。
そして何より、ドナーを必要として居る方にとってはムカツク話しかも知れないです。
でも、これは緋桃の考え方でも在ります。
私は私でないとダメなんです。
だから、ヒロインにこの話しをして貰いました。