‡‡‡ 斜向かいさん ‡‡‡
「おい、そこの野蛮雌猿」
「ほぇっ?!」
いつも通りに、自分の部屋から、ごじょ兄の部屋へと屋根を伝って行こうとした時に、道路の方から私に向かって、低く通る声が飛んできた。
「や、野蛮雌猿ぅっ〜?」
「そうでないなら何だってんだ、てめェは…」
「な、なんでそう言う事いっつもいっつも………ぅきゃぁっっ!?!?」
声を掛けられたのが、ごじょ兄の家の屋根に足をかけた瞬間。
『野蛮雌猿』と言われて、頭に来て叫んだら、足を滑らしちゃって…。
し、死ぬぅぅぅぅぅぅ〜〜〜っっ!!
「っ!」
勢い良く開いた窓の音と、私を抱きしめる腕。
いつもの煙草の匂い………。
「ふぇ〜……ごじょ兄ぃぃぃぃ〜〜」
「だからっ、屋根伝って来るなっていつも言ってんだろうがっ!」
「だって、だってぇっ!」
「おい、悟浄。その雌猿、ちゃんと教育しやがれ」
あ、ごじょ兄固まった…。
「てめェ…こうなるって分かっててに声掛けやがったなっ!三蔵っ!」
「フン…危ねぇって学習できていいじゃねぇか…」
ぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜…。
相変わらず怖いですぅ、三蔵さん…。
顔はすっごい綺麗なのに…勿体無いなぁ…。
玄奘三蔵さん。
ごじょ兄、捲兄、八戒さんと同じ大学に通っている、家の斜(はす)向かいの人。
ごじょ兄の家のお向かいさん。
金髪に紫暗の瞳の外見からは全く想像できないくらい………口の悪い人…。
「あ、三蔵さん、悟空って今いますかぁ?」
ごじょ兄の腕の中から、三蔵さんに聞いてみる。
「あ?………家にいるはずだ…」
「そっか…ありがとうございますv」
にっこり笑って御礼を言ったら、『ふん…』って言って、顔を背けられた…。
くぅっ。
なんか知らないけど屈辱っ!
「何?三蔵んとこの猿になんか用でもあるのか?」
ごじょ兄がそう言いながら、私を抱き上げるようにして、部屋に入れてくれる。
「ごじょ兄…悟空は猿じゃないよぉ?」
そんな風に言うから、私が三蔵さんに『雌猿』って言われちゃうんだっ、きっとっ!
「……まぁいいじゃん?それで、悟空に何の用があるんだ?」
「えっとね…………本借りてたから…返そうって思って……………ねぇ、ごじょ兄?」
「ん?」
「なんで最近宿題見てくれる時…いつもこの格好なの?」
この格好…。
ごじょ兄が私の後ろから抱きしめている状態。
しかも私はごじょ兄の膝の間に座っているし…。
宿題してる間、ずぅ〜〜〜っと、ごじょ兄の声が…耳元に聞こえて………。
とぉ〜〜っても恥ずかしいんだってばっ!!
以前は机を挟んで向かい合っていたのになぁ…。
「こうしてる方がを抱きしめていられるだろ?」
確かにそうだけどさぁ…。
はっきり言って…宿題どころじゃないよぉ〜…。
うぅぅぅぅ〜………。
「捲にぃ〜………」
「そこで捲簾を呼ぶなっての…………食うぞ?」
なっ!?
「ご、ご、ご、ご、ごじょ兄っ?!」
『食べる』の意味に二通りの意味があるって知ったのがつい最近。
この状況での意味は…最近知った方だって嫌でも分かるけどっ!!
「きゃっ」
私の背中にいたごじょ兄が、不意に私の前に回って、私を…………押し倒したぁっ?!
「ごじょに―――」
「あまり待ってる自信ねぇんだわ、俺」
ま、待ってるって何をっ?
えっ?えっ??
ご、ごじょ兄の顔が近付いてくるっ!?
うわっ!
手がっ、指を組むように握られて動かせないしっ!
ごじょ兄の紅い髪が私の頬にかかるっ。
「………好きだぜ、…」
熱っぽくそう言われて、心臓が一つ大きく跳ねた。
「ごじょ兄……………」
「悟浄って呼べよ、たまには…」
「ぅ……………ご、…ご、じょぅ………」
「上出来v」
そう言って、ごじょ兄が私にキスをする。
優しく優しく何度も何度も………。
でも…友達が言ってた…深く長いキスって………なに?
‡‡‡ ‡‡‡ ‡‡‡ ‡‡‡ ‡‡‡ ‡‡‡ ‡‡‡ ‡‡‡
「何故悟浄までいる…」
「それは私にも分かりません…」
「が俺の女だからに決まってるし?」
三蔵さんの家の前で、私と三蔵さんとごじょ兄が話している。
私は、この三蔵さんとこに居候している悟空に用事があったんだけど…。
あ、悟空は私のクラスメイトなんだv
私の首に絡みつくように、ごじょ兄が腕を回して背後から三蔵さん威嚇してるっぽいけど…。
それでも聞くことは聞かなきゃね?
「あのぉ、悟空は?」
「あぁ…ついさっき出て行ったが…」
ついさっき?
うわっ、タイミングわるっ!
「…どうしよう…」
「なんだ?」
三蔵さんが俯いている私に向かって聞いてきた。
「えっと…本を返しに来たんですけど…」
「それなら俺から渡しておくが…」
そうしたいんだけど…。
そうも行かない理由があって…。
「………ご、悟空に直接渡さなきゃダメなんですよぉ…」
「なんだと…」
こ、怖いっ!
なんでそんなに睨むのっっ!?
思わずごじょ兄の腕にぎゅぅって抱きついたら、さらに睨まれたっ!
「あの猿が何を言ったか知らんが、いいからよこせ。俺が返しておく」
「で、でもぉ〜…」
「……………さっさとしねぇかっ!」
「ふぇっ!ご、ごめんなさいっっ!!」
こ、怖いよぉぉぉぉっっ。
「おぃ、三蔵?人の女泣かせんなよ…。怒るぜ、俺でも」
「フン…てめェが怒ったところで別に何も変わらん…………。ったく……悪かったな、怒鳴って…」
え………?
今…なんて言ったの?
悪かったとか言った??
あ、頭撫でられてる…。
「………三蔵、てめェ…もしかして…」
「時機に悟空も帰ってくるだろう…上がれ」
顎で家の中に入るよう勧められ、そのお言葉に甘えて、家の中で悟空が帰ってくるのを待つ事にしたんだけど…。
なんか…今度はごじょ兄が怖いですっ。
だって………なんだか知らないけど、三蔵さんを睨んでいるし…。
私の首に絡み付いている腕が…ちょっとキツクなって………少し苦しいですぅっ。
「ところで…なんで悟空に直接渡さなきゃならないんだ…」
「あ…えっと……悟空がそう言ったの…『直接俺に返してくれよなっ?』って」
「んだよそれ…どんな本借りたんだ?」
ごじょ兄が私の隣でお手伝いさんが出してくれたコーヒーを飲みながら聞いてくる。
あ、三蔵さんの家にはお手伝いさんがいるの。
すっごいよねぇ…。
「えっとね…これ」
そう言って、机の上に本を置く。
タイトルは…、
『揺れる日本経済 外国に学べ』
というハードカバーの本。
「………お前が読んだのか?」
三蔵さん…マジメな顔して言わないで…。
どう考えても私が読むような本じゃないし…。
「お父さんが読んだの…」
「おじさんが?…あぁ、おじさんって…確か…」
「うん。証券マン」
なんか良く分からないけど、お父さんは世界情勢とかに非常に敏感。
その所為なのか、いろんな本を読み漁ったりもしているし…。
「まぁいい………それは俺の本だしな…」
…………。
「そ、そうなの?」
「あの悟空が読むと思っていたのか?」
「どう考えても読まねぇよなぁ…」
「てめェには聞いてねぇ…」
「んだと…」
あぁぁっ!
そこで喧嘩しないでよっ!?
でも、確かに…悟空が読むには…ちょっとねぇ…。
そっか…三蔵さんのなんだ…。
なんだかすっごい納得…。
じゃぁあの噂とかも本当なのかな………。
株で儲けているっていう………主婦情報…。
「じゃぁ…三蔵さんに返せばいい事だよね?」
「そうだな」
三蔵さんが本を手にとって私の意見に同意してくれた。
なんで悟空…あんな事言ってたのかなぁ…?
「んじゃぁ、用は済んだし、帰るぞ、」
「あ、ぅん。それじゃ…」
立ち上がって、三蔵さんにお茶のお礼を言おうとしたら…、
「まだ俺の用事が済んでねェから帰る事はねぇだろう…」
と三蔵さんが、ソファに座ったまま私を見て言った。
用事???
なんかあったっけ?
「」
「はい?」
「その根性無しと別れて俺の女になれ」
……………………………………はぃ?
「三蔵……やっぱり狙ってやがったなっ!」
「分かっていながら俺の所に連れてくるのか……相変わらず莫迦だな、てめェは…」
ちょ、ちょっとっ?
私今何を言われたっけ??
『別れて俺の女になれ』?
なぁんか似た科白を………あぁ、八戒さんに言われたっけ?
「あ、あのっ!」
二人の非常に気まずい雰囲気の中、勇気振り絞って声を掛けてみた。
「なんだ?」
「どした?」
声を掛ければ、二人ともさっきまでの険悪な雰囲気を無くして、こっちを見てくれる。
「えっと……………私は、ごじょ兄のモノで構わないんですぅ……」
顔を赤くしながらそう言ったら、三蔵さんの眉間には立派なシワが刻みこまれ、ごじょ兄は勝ち誇ったように笑みを浮かべている…。
「……………どこがいいんだ……」
「どこって…………キ……キス…してくれるし……」
ぅ、うわぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっ。
自分で言っておいてなんだけどっ、メッチャ照れますっっ!!
「……、言っておくが、そいつは誰にでもキスするようなヤツだぞ…」
「えぇっ?!?!」
「おいっ、何言ってんだっ!三蔵!!!」
だ、誰にでもキスしちゃうのぉっ?!
「も信じてんじゃねぇってのっ!!」
うぅぅぅぅ〜〜〜、だぁってぇ〜…。
「今は以外にキスはしてねぇってのっ」
今はって…………微妙に気になること言わないでよぉ…。
「………ごじょ兄………」
ちょっと不安になって、ごじょ兄の服の裾を引張ると、ふわっと抱きしめてくれて…。
「大丈夫だっての……三蔵の言葉に振り回されんじゃねぇって…」
って言ってくれたんだけど…。
「ふん…振り回されてるのはてめェだろう、悟浄…」
なんて三蔵さんが言うから、ごじょ兄また突っかかってるし…。
この二人って…。
犬猿の仲っていうか…………悪友っていうのかなぁ?
そう言えば八戒さんも困っていたよねぇ…。
あ、そうだ。
「ごじょ兄、深く長いキスって………どんなの?」
前々から聞いてみようって思ってたんだけど…。
あれ?
ごじょ兄も…三蔵さんまで固まってる………。
私…また変な事言った???
END
『お向かいさん』の続き(笑)
タイトルだけ決まっていたモノ(笑)
おかげで意外と苦戦しましたぁ〜。
どうも、三蔵がメインになってしまいがちで…(笑)
それでも一応悟浄が相手ですしねぇ。
逆ハーっぽいけど、ヒロインは悟浄以外全く見ておりませんので…。
と言う事で、………すみません緋桃さんっっ。
ごじょドリじゃなくなりかけてますよ、コレっ(滝汗)
いつもどおり返却可、です。
緋桃さまに限りお持ち帰り可能です。
八戒に続き三蔵登場!三蔵が出張り過ぎると困りますねぇ。
でも、ヒロインちゃんが良い味出してます(笑
純に悟浄好きでいるし。
返品なんてありえないです!