金平糖









カリ…  カリ…










「おい…」

今日は残念ながら部活はない。
何故ならば、テスト1週間前と言う日で部活動は強制的に休みになっているからだ。
テスト前に図書室で勉強をする事が多い
真向いに座る男、跡部に呼ばれてノートを纏めていた手を止め顔を上げる。

「何?」

も成績は良い方だが、成績学年トップの優秀者がに質問する筈がない。
声を掛けられた理由も解らない為素直に聞くしかない。

「此処は図書室だぞ」

そんなのは重々承知。
何せはテスト勉強をしに来ている訳だから。

「せやなぁ」

勝手に隣の席を陣取っているのは忍足。
寧ろはテスト勉強に付合ってくれと誰かに頼んだ訳ではない。
勝手に彼らが付いて来て、しかも近くに座っているのだ。
真面目に勉強したいにとっては邪魔以外の何者でもない。

「…だから何よ?」

彼らが何を言いたいのか解らないは少し苛々して来た。

「だから、それは良いのか?」

「マズイやろ…」

二人が指差す先にある物はが持って来た物。
淡い色をした綺麗な物で小さな瓶に納められている。
は時折その瓶の蓋を開けて2、3個取出す。

「…これ?」

が手にした瓶には金平糖が入っているのだ。
瓶の蓋を開けて机に置くとほんのりと甘い香りを放つ。

「図書室やで?」

「飲食禁止だろ、普通」

図書室の入口のドアにも三人が座っている付近の壁にも『飲食禁止』の貼り紙。
図書の本として貸出さなければならない本が汚れてしまうのを防ぐ為、普通何処の図書室、図書館に行っても飲食禁止と書かれているだろう。
それを簡単にも破ってしまう
しかも堂々と…。

「せめて隠して食べぇ」

堂々とし過ぎているのでは、と忍足は勧める。

「違うだろ…」

やる事する事ド派手な跡部がこの中では一番の常識人なのだろうか。

「良いじゃん別に」

再び瓶の中から金平糖を取出し口の中に放り込む。


カリ… カリッ…


小さな音を立てての口の中を転がる。

「音も不味いんとちゃう?」

「だから、それも可笑しいだろ」

忍足はに、跡部は忍足に突っ込む形になっている。
は全く気にした様子はないが。

「窓際で日当り良好、図書司書からは死角って言ったらやっぱりこれでしょ!」

満面の笑み。
きっとこの笑顔の事を言うのだろう。
純粋無垢で悪びれた様子など微塵も感じさせず、本当に楽しそうな表情。
跡部も忍足も面喰った顔をして言葉に詰まってしまう。

「…まぁ、仕方ないんかな」

「見てない事にしてやるか…」

二人とも諦めの溜息を漏らす。

「何言ってんの?」

驚きに大きな目を更に見開き、跡部と忍足の顔を見る。

「同罪…でしょ?」

ニッコリと笑って瓶から金平糖を取出す。
その量は半端じゃない。
掌いっぱいに金平糖を取出すと半分位になる様に分ける。
それを無理矢理二人に持たせる。

「ちょお、要らんわ」

それでも持つ事を嫌がる忍足。
仕方なく机に広げられていたノートの上に乗せる。

「なっ?!何すんねん」

それはノートが汚れるからなのか、金平糖が汚れるからなのか。

「跡部も、はい」

忍足との遣取りを先に見ていた跡部は、大人しく手を差出す。
忍足の二の舞にはなりたくないのだろう。

「結構美味しいよ」

嬉しそうに自分の分を瓶から取出す。

「こんな甘ったるい物食えるか!?」

未だに抗議を続ける忍足を横には美味しそうに金平糖を口に運ぶ。

「たまには良いじゃん」

語尾が弾む様に喋る。
そんなに嬉しいのだろうか。

「跡部も食べてよ」

渋々と一つ手にする跡部を観察するかの様に見つめる。


カリ…


淡い水色の金平糖が跡部の口に入った。

「…美味しい?」

如何しても感想が聞きたいと顔に書いてある。
それに気付かない跡部ではない。

「まぁ、悪くはねぇな」

そんな跡部を見て、一人裏切られたと言うショックを受けている忍足。
跡部が食べたのだから、自分も食べなければならない。

「何て事すんねん跡部」

本当に甘い物が駄目なのだろう…。

「無理矢理押込むよ?」

今度はお願いじゃない、脅迫に近い物。

「………甘ぁッ」

小さな欠片を一つ入れただけでも甘いと言う。

「美味しいのに」

その感想には不機嫌を隠さない
そんな二人を見ながら跡部は幾つか金平糖を口に運んでいた。
如何やら跡部は気に入ってくれた様だ。
きっと跡部は小さい頃に食べた事がなかったのだろう。
確かに砂糖の塊で身体には悪いだろう。
お金持ちな跡部家ではきっと禁止されていたに違いない。

「跡部、美味しい?」


カリッ


「あぁ…」

「良かった」

本当に嬉しそうに笑う。
太陽の光が窓から射込んで来ての髪をキラキラと輝かせた。

「忍足も金平糖美味しいのに」

未だ忍足が金平糖を嫌うのが許せないらしく詰まらなそうな顔を向ける。
のクルクルと変わる表情を見て、跡部と忍足は同時に吹出した。

「「ック」」

その同時に笑う理由が解らないは1人取残された事に不満を持つ。

「何2人して笑ってんの?!」

「別に?」

「何でもないで?」

また跡部と忍足が顔を向い合せて笑った。

「何が可笑しいの?!」

気になって仕方ないに唯2人は笑うだけ。
2人がを仲間に入れない事に対し、また少し頬を膨らます。

「もう良い!」

そう言って金平糖の入った瓶の蓋を開ける。
その中から幾つかの金平糖を手の平に乗せて口に運ぶ。
そんなの姿を微笑ましく見守る忍足。
未だ少し笑っている跡部は横を向いて、目線だけはに向けている。










そんな天気の良い放課後の話。


















2007/1/27
…書き溜めて置いてラストが思い浮ばずに困って中断していた超短編小説。
これ、去年の6月だか7月だかに思い付いたタイトル(だった筈)。
ずっとスランプ…と言うか、書かなくても妄想しなくても平気に生活していたので自分でも忘れてた物。
あ〜…何か意味不明なのは何時もの事だけど、特にテニプリの夢を書き上げて欲しいとのアンケートが一番多かったので。
取敢えずこんな微妙な物をUPして置きます…スミマセン(汗