<mind>











「見て見て三蔵!」
仕事帰り車を降りて少し歩いていた三蔵は、後ろから呼ばれ足を止めた。
聞き覚えのない声だったら迷わず先へ進む三蔵だが、
この声に呼ばれてしまえば止まらざるを得ない。


「あ、やっぱ三蔵だ」
何となく後姿が似ていたから呼び止められただけらしい。
立ち止まり振り返る前に言われ、三蔵は苛立ちを覚える。


「違ったら如何しようかと思ったけど、金髪で背広なんて三蔵しか見た事ないし」
振り向こうとしない三蔵の隣まで歩き、三蔵を下から覗き込む。


「さーんぞ?」
少し長めの前髪で瞳が隠れていて、三蔵の表情が読めない。
黙った侭の三蔵を不思議に思い名前を呼びながらスーツを引っ張る。


「………」
それでも無言で前を向いているだけ。
何故三蔵が話してくれないのかが解らない。


「三蔵、如何したの?」
「…てめぇは金髪でスーツ着てりゃ誰にでも俺の名前を呼ぶのか」
やっと口を利いてくれたと思ったら三蔵の口調は優しくない。
寧ろ、荒々しい。
それに付け加え目すら合わせてもくれないで歩いて行ってしまう。


「…何?」
話してくれたは良いが、自分が怒られる様な事を言ったのかも解らない為、
歩いて行ってしまう三蔵を追い駆ける事しか出来ない。


「ちょーっと三蔵!」
一生懸命追い駆けてもコンパスの長さが大きく違う。
其の為必然的に小走りになってしまう。
其の事に気付いている癖にワザと早く歩く三蔵の正面に回り込み、三蔵の行く手を阻む。


「なーんで逃げんのさ!」
向きを変えて歩き出そうとする三蔵の大きな手を掴み引っ張る。
やっと向いてくれた三蔵の瞳は、驚きで大きく見開かれていた。


「…お前、髪……」
「あぁ、なんとなく切っちゃいたくて」
腰まであった長くて綺麗な髪を肩に掛かるか掛からないかの処まで短く切ってしまっている。
其処まで切ってしまったのにも関わらず『なんとなく』……。
強がりも良い所だ。
三蔵が如何に髪の長さに執着しないにしろ、其処まで切っておいてなんとなくな訳がない。


…お前」
前に三蔵にだけ話した事があった。
元々短かった髪を、彼氏と会ってから延ばし続けていると。
切る事はないと胸を張って言っていた事…。
凄く中の良い恋人で、見ているこちらが恥ずかしくなる位の…。
がその彼氏と一緒に過ごした時間を示す物。
それを切ったと言う事は…………。


「心配しなくて良いよ」
大丈夫だから。
そうは言ってる物の、三蔵の瞳にはそうは見えない。


「あはは、フラレちゃった」
「……」
「三蔵は、その事知ってるから」
笑ってはいるが、泣くのを我慢する手段の様にも思える。


「浮気、されてた」
相手は気付かなかったが、浮気現場に遭遇してしまったらしい。
そして其の侭自宅に戻り自分で髪を切った。


「…馬鹿だよね、ずっと延ばしてたなんて」
溜息に交えて今までの自分愚かさに気付く。


「ね、似合う?」
笑顔が輝く。そんな台詞がピッタリな表情。


「………下手クソ」
が自分で切った為、上手とは言えない出来だ。
妙に長い髪がある。
其の髪を掴んで笑う。


「三蔵、切ってよ」
上手く切れないが、三蔵を見上げ切ってくれと頼む。


「………」
無言で歩く三蔵は、肯定の意。


「ありがとう」
追い駆けて三蔵の隣を歩く。
の言葉に三蔵は何も答えない。
只、2人には必要ない様で。











「おい!
三蔵の隣で歩き始めて、顔を上げた時にある人が目に映った。


「何だよそいつは!」
怒鳴り散らし、の元まで歩くと手を無理矢理掴んで引っ張る。


「ちょっ!痛い」
「誰なんだよ!」
怒鳴る事しか知らないかの様にを責め立てる。


「…フン馬鹿だな」
の手を掴み怒鳴る男を鼻で笑い、見下す。


「んだ?てめぇ!」
三蔵の態度が癪に障り、相手の男を更に怒らせる。
それでも変わらない三蔵の態度に、男はキレ始める。


「俺のモンなんだよ」
の手を更に強く引き三蔵に見せ付ける。


「?!あたしは!誰の物でもないっ!!」
珍しくが大きな声を出し抵抗を見せる。
男と一緒に居た時は絶対に見せなかった抵抗。


「悪いな、こいつは俺のモンでな」
男が怯んだ隙に三蔵がの腕を引き、自分の方へと引き寄せる。
状況が把握出来ていない男を置いて、を連れて行く。
自身も理解出来ていない様子だが、三蔵はお構いなし。












「さ、三蔵?」
強く握られた手。
後で呆気に取られている男を横目に、三蔵に着いて行く事しか出来ない。


「三蔵。手、離して」
追い駆けて来ないのを確認し手を離す。


「如何言う事?」
誰の物でもないと言った矢先に『俺のモンだ』とか、手を引いて行くとか…。
理解出来ない事だらけ。


「……まんまの意味だ」
「そんなんじゃ解らない!」
「お前は何故着いて来たんだ」
の質問には答えない。







本当は三蔵の腕を拒む事だって出来た。
………本気で拒めば三蔵から逃げる事だって出来た。
只、心の底で三蔵が連れて来た事を…、『俺のモノ』と言ってくれた事を喜んでる。







「ずるいよぉ」
抱き竦められてしまえば拒める筈がない。
三蔵に本当の事を言ったのは、三蔵を信じていたからだけじゃなくて、
三蔵に知ってて欲しかったから。
助けてくれるのは三蔵だと思っていたから…。


「三蔵ぉ…」
抱き締めてくれる三蔵に縋り付く。
其れを無言で受け容れてくれる。










其処に求めた温かさが、温もりがあるから。






















ごめんなさいっ!!
お待たせした上リクに沿ってないなんて。
20くらいのヒロイン?あ、飴と鞭……?!
最後だけなんとか甘くなった感じ?
すみませんっ!!
メグ様のみお持ち帰りOK
返品可能!