‡‡‡ お向かいさん ‡‡‡
「………ごじょ兄、おそ〜〜いぃぃ〜〜…」
珍しくごじょ兄が映画に誘ってくれたのは、昨日の事。
『恋人なんだし?それらしい事しようぜv』
なぁんて言って、映画に行く事になったんだけど。
しかも外で待ち合わせっていう事までして。
そんな訳で、私は今、このさっむい中、シネコンから最寄の駅前に突っ立っているんだけどぉ…。
既に約束の時間を30分オーバー…。
はっきり言って映画どころじゃないっ。
何故か連絡も取れないし…。
念のために捲兄にも連絡入れておいたんだけど…。
「………寒い…うぅ〜〜…」
改めて寒いって呟くと尚更寒いけどっ、暑いと言ったからって暖かくなるなんて事絶対ないって分かってるしっ。
「…もう一度電話してみよぅ…」
携帯を取り出して、短縮ボタンでごじょ兄の携帯に掛けようとした時に、目の前に、派手な赤のスポーツカー…っぽい車が止まった。
運転しているのは、かっちょイイお姉さん。
降りてきたのは…、
「………ごじょ…兄………?」
「悪いな送らせて」
「ほんと、高いからね、このお礼v」
「分かったって」
私の声が届かなかったのは、私の声が小さかったからなのかな…。
ごじょ兄、私に気付いていない?
車が重低音を発して立ち去っていった。
その車をぼやぁ〜〜〜っと見送っていたら、
「何見てんだ?v」
いつものごじょ兄のスキンシップで、私を後ろから抱きしめた。
「…遅いっ!」
「おっ。悪かったって。バイトがなかなか終われなくってなぁ」
「連絡くらい入れてくれたっていいじゃんっ!!」
「入れただろ?『遅くなる』って」
確かにメールでそう来てたけど…けどねっっ!
「『遅くなる』だけじゃわかんないよぉっ。どれくらい遅くなるか教えてくれなきゃ、ずぅっと待ってるしかないじゃんっ!」
「おい、何んなに怒ってんだよ…。メールの内容が足らなかったってぇのは、悪かったけど…。お前それ以外でも何か怒ってるだろ?」
うっ。
す、鋭いなぁ…。
さっきの女の人誰?
だなんて………いっくら私でも聞けないもんっ。
「?」
「…………………………ごじょ兄なんか…大っ嫌いだぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「はぁっ?!」
突然の私の大声に驚くごじょ兄を置いて、私は駅構内に戻って、自宅へと帰ってしまったのでした…。
あぅ…。
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「ったく、なんなんだよっ。……………繋がらねぇし?」
突然駅前で大声で『大嫌い』宣言されて、不覚にも呆然としている隙に、自分の女に帰られた。
慌てて後を追うように帰って、隣の家のアイツの部屋の窓を叩いたけど…。
帰ってきた言葉…つぅか、張り紙…。
『ごじょ兄とは当分口きかないっっ』
という…あまりにもお子様な張り紙だった。
一日経てば、少しは収まるだろうと思って、翌日の昼…まぁ、今日だな……アイツの携帯に何度か電話するけど、繋がらない。
「男が携帯見つめて億考えてんだ?気持ち悪いぞ」
「捲簾…。なぁ、からなんか言われてねェ?」
ビール片手にリビングに入ってきた捲簾に一応聞いてみる。
何故か知らねぇけど、はたまに俺より捲簾をあてにするからなぁ…ちょっと寂しいぜ、それって。
「からか?いや、別に何も聞いてないぜ。あぁ、でも昨日はやたら俺に電話してきてたな」
「昨日?なんで?」
「悟浄が待ち合わせ場所になかなか来ない、何かあったのかって………そりゃぁ健気に何度も何度も」
思いっきり嫌味込めて言ってんな…。
ビール飲みつつ、口元笑ってるぜ、捲簾…。
「あぁ〜…しょうがねぇ…。家の方に電話してみっか…」
リビングの隅にある電話を手にとって、隣の家の電話番号を押す。
数回の発信音がして…、
『はい、緋桃です』
「あ、おばさん?俺、悟浄」
電話口に出たのは、歳のわりには可愛い声をしたの母親。
『あら、悟浄クン〜。電話なんて珍しいじゃない?あ、でもおばさんとしては嬉しいかな?』
「なんで?」
『悟浄クンの声が耳元で聞けるんですものぉv』
「マジ?そう言われると嬉しいんだけど?」
相変わらず面白れぇ人だよなぁ。
『たまにはこっちに遊びにいらっしゃいよ。ご飯ご馳走するわよ?もちろん捲簾クンも一緒にねv』
「おばさんもたまには俺等と遊ばねぇ?おばさんならOKなんだけどさ」
この人外見も可愛い系で結構イケるんだよなぁ。
「おい、悟浄。お前何の為に電話したんだ?」
二本目のビールを煽りながら捲簾が言って、思い出したっ。
やべっ、忘れるところだったぜ。
「あ、おばさん。いる?」
『?いないわよ』
あっさり帰ってきた言葉。
「え?どこに行くって言ってた?」
『あら?悟浄クン知らなかったの?てっきり悟浄クンに許可貰って行ってると思ってたんだけど…』
俺が許可しなきゃならないような場所ってどこよ、おばさん…。
「で、何処?」
『近くよ。お向かいの八戒さんのところv』
「……………なんでっ?!」
『さぁ?なんでも勉強を教えて貰うとか…』
「………サンキュおばさんっ」
通話ボタンを押して、受話器を放り出すようにソファ投げて、俺は急いで家を出て行った。
背後で捲簾が笑っている声が聞こえた……。
あのヤロウ…知ってやがったなぁ………。
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「えぇ、そうですよ。凄いですね、直ぐに理解してしまうんですねぇ、は」
「八戒さんの教え方が上手だからだよぉ」
うちの家のお向かいの猪八戒さんは、塾の講師のバイトをしているくらい、頭も良くって、教え方も上手。
「でも珍しいですね。いつもは悟浄に教えてもらっているんでしょう?」
「ぅ……………今はごじょ兄の名前出さないでっっ」
今一番聞きたくない名前なんだからっっ。
「………と悟浄は恋人でしょう?」
「何で知ってるのぉっ?!」
「おばさまから聞いてますからね」
ニッコリと笑顔で答えてくれた八戒さん。
………お母さんと買い物仲間だって事すっかり忘れていました…。
むぅ…主婦情報は侮れません…。
「………でもごじょ兄には女の人他にもいるみたいだし…」
「どういう事ですか?」
私の言葉に八戒さんの表情が険しくなった気がしたんだけど…。
どうしてかな?
「なぜそう思うんですか?は」
「え、えっと………………ぁ、あのね?」
昨日見た事、あった事を八戒さんに話していく。
最後の方は、もう涙で上手く話せなかった。
「それは…辛かったですね…」
私の頭を優しく八戒さんが撫でてくれる。
「そうですね……いっその事、僕に乗り換えちゃいますか?」
「ふぇ?」
八戒さんが楽しいそうに言った言葉の意味が今一理解できず、涙を目に溜めたまま、顔を上げた。
ぅわ。
すっごい楽しそうな笑顔…。
「えっと………乗り換えるって?」
「悟浄を捨てて、僕と付き合えばいんですよv」
す、捨ててっ?!
そんな物みたいに…。
「だぁっ!!!八戒っ!何人の女口説いてんだよっ!!!」
「おや、悟浄。不法侵入で訴えますよ?」
「ごじょ兄っ?!」
ごじょ兄が………八戒さんとこのリビングの…窓から入ってきた…。
慌てていたのかな…土足だよ…。
「靴ぐらい脱いで下さいよ、悟浄…」
「あ、わりっ」
八戒さんに言われて初めて気付いたらしくて、ごじょ兄が靴を脱いで、リビングの外に置いた。
「で、八戒は、なぁに人の女口説いてるワケ?」
「貴方が他の女の車にホイホイ乗るからですよ?」
「あぁ?」
「そうですよね、?」
ニッコリ微笑むその背後にチラリと見えた黒いもの…。
こ、怖い…。
逆らえないんだけどぉ〜〜っっ。
「八戒、そのオーラは卑怯だぜ…」
「何の事ですか?」
「ぇ、えっとっっ……………」
私が一声上げて、何か言おうとしたら、二人の会話がピタリと止まって私をジッと見ている。
う…言い辛いよぉ…。
で、でも言わなきゃだしっ、聞かなきゃだしっっ。
「ご、ごじょ兄?」
「ん?」
ごじょ兄を呼べば、優しく微笑んでくれて、傍に来てくれる。
「なんだ?」
そして、いつも私の髪に触れて、私に答えを聞いてくる。
「………昨日の……ぉ、女の人っっ…誰……………?」
ギュッと目を瞑って、やっと言えた…。
昨日からモンモンとしてて、何とかしたかったんだよぉ…。
「………何?お前妬いてたのか?」
「っっっっ…わ、悪いのぉっっ?!?!」
「悟浄には貴女の事何にも分かってないんですよ。やっぱり僕と付き合いましょう?」
「ふぇっ?八戒さんっっ?!」
突然後ろから伸びてきた腕にキュッと抱きしめられて、耳元近くで囁かれてしまってっっ。
うにょぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜っっっ!?!?!?!?
パニックですっっ。
「可愛いですねv…食べてしまいたいですよv」
「ふぇぇっ?!は、八戒さんっ!?私食べ物じゃないですぅぅぅっっっ!!」
八戒さんの豹変振りにおろおろしながらそう叫んだら、
「……………『食べる』の意味…分かってますか、」
って聞かれた。
「…幾らなんでも知ってますぅ…」
自分がどうも世間知らずって言うのは分かっているけど…。
『食べる』って事ぐらい分かってるよぉ…。
「あ、八戒、コイツそれの意味フツーに解釈してるから」
「………食欲の『食べる』ですね…」
「そゆことv」
な、何?
違うのっ?
「まさかとは思いますけど…悟浄もしかして…」
「………………………まだ食ってません…んだよっ。俺は好きなもんは取っておく方なんだよっっ」
「ぼやぼやしてると横取りされてしまいますよ…」
八戒さんが私から手を離して、溜息をついて言った。
「え?何??」
「あ〜あのな?………耳かしてみ?」
ごじょ兄が何か言いにくそうな表情をして私にそう言うから、ごじょ兄に耳を傾けた。
「…………………で、…………………っということ。OK?」
「……………………………………………………………OK…」
真っ赤になって下を向いて、返せた言葉がこれだけ。
食べるってそういうことにも使うのねぇ…………。
「で?はどっちに食べちゃって欲しいわけ?」
「ええええぇぇぇっっっ?!?!?!」
突然ごじょ兄が言う言葉に、食べるの意味を理解した私は、混乱した。
「こ、答えなきゃダメなのっっ?」
はっきり言って、答えなんて決まっているんだけどっっ。
敢えて言うのって……恥ずかしすぎるよぉぉっっ。
「耳まで真っ赤ですよ………やっぱり可愛いですねぇ…譲って下さいよ、悟浄」
八戒さんっ?
「幾ら八戒の頼みでも、それだけは聞けねぇってのっ」
ごじょ兄ぃ〜…。
「ケチですね…」
いや、ケチとかの問題じゃないと思いますけどぉ…。
「「で。どっち?」」
二人同時に私を見てニッコリ笑って聞かれた………。
あぅっ………ど、どうしよう……。
「え、えっと………」
す、素直に言わなきゃだめなのかなぁ………。
「〜〜〜〜〜〜捲兄っっっ!!!!!」
ギュゥっと目を瞑って叫ぶように私は言ったんだけど…。
「「は?(はい?)」」
という、呆気に取られた二人の返事(?)が聞こえてきました………。
ごめんね、捲兄…。
だって、ごじょ兄がいいって………恥ずかしくて言えないよぉぉぉぉぉぉっっっ。
あ、あの女がごじょ兄とどんな関係の人なのか聞くの忘れたっっ!!
END
『隣人』の続き(笑)
さっぱりしたリクで助かりました(笑)
なんかヒロインの精神年齢ぐんぐん下降してますけどね(笑)
捲兄、科白おめでとうっ(爆)
お向かいの八戒さん、個人的に好き(爆)
すみません、緋桃さん。
なんだか今回も楽しく書かせていただきました。
そして気付きました…全く甘くないですっ(汗)
ギャグです、ギャグっ(笑)
すみません…いつもどおり返却可、です。
緋桃さまに限りお持ち帰り可能です。
このシリーズ(私が強引にシリーズにさせ様としている物)は面白いですね。
捲兄も悟浄も大好きだから、このシリーズ私のツボです(笑
八戒登場悟浄さん危うし!ギャグ面白い☆