‡‡‡ 隣人
‡‡‡
「ごじょ兄、ごじょ兄っ」
「あぁ〜?」
向かいの家の二階の窓が開いて、私が呼んだ張本人が煙草を口に咥えたまま私を見た。
「あ、ごじょ兄v」
「………あ、危ねぇっていつも言ってるだろうがっ!」
「え〜だって、面倒じゃん。玄関から入るのってさぁ〜」
「だからって窓越しに屋根伝って来るなっての…」
自分の部屋の窓から、ごじょ兄の家の屋根に足を掛けた状態の私を見てそんな事を言うから、
「……………わかったよぉ…いいもんっ、捲兄に聞くからっ!」
プィッっと顔を背けて、ごじょ兄の隣の部屋の捲兄の部屋へ屋根を伝って行こうした。
「あぁ?なんで捲簾なんだよっ?」
「だって、ごじょ兄、優しくないっ!」
ビシッっと人差し指を向けて屋根の上に立って胸張って言った。
およ?
「?」
あ〜…屋根って基本的に斜め…だし?
「ぅにゃぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!?」
ぅわ〜んっ!
落ちるぅぅぅ〜〜〜っっ!!
「っ!!」
私の家の隣には、それはそれはカッコイイお兄さんが二人いる。
一人は黒髪で短髪で、煙草とお酒が大好きで。
そのサッパリとした性格で、男女問わず好かれている、捲簾。
もう一人は、紅髪で長髪で、煙草とお酒と女が大好きで。
その溢れ出すフェロモンに、殆どの女性が狂う………らしい、悟浄。
二卵性の双子なんだけど、結構顔の形は似てるんだよね。
物心ついた時からこの二人は私のお兄さんみたいな感じ。
近所の悪ガキに苛められれば、何処からともなく、捲兄がやってきて、相手をぶちのめし、ごじょ兄が私の頭を撫でてくれた。
更には、むかぁし、子犬を拾ったんだけど、飼う事が出来ず、自分の家の玄関先で泣きながら子犬を抱えていたら、ごじょ兄が来て、子犬を引き取ってくれた。
現在その犬は捲兄とごじょ兄で飼っている。
んで、小学生の時から変わらないのが、この屋根を伝ってごじょ兄達の部屋に行って、宿題を教えてもらう事。
なんだけど…。
「っっ…あっぶねぇ〜………。だから屋根を伝って来るなっつってるだろうがっ!」
もう少しで落下しそうだった私を、ごじょ兄が私の腕を掴んで引張ってくれたおかげで助かった。
「ぅ〜〜〜…だってこっちの方が近いんだもんっ!」
バッっと顔を上げればごじょ兄の顔。
あたり前なんだけど……カッコイイ〜vv
「ん?どした?…もしかして、既にどこかぶつけてたのかっ?」
「大丈夫だよぉ。ごじょ兄、かっこいいなぁって思っただけ」
「わかりきってる事言っても何もやんねぇぞ?」
そう言いながら、私を屋根からごじょ兄の部屋へ引き上げてくれる。
この瞬間が結構好き。
だって、一瞬でもごじょ兄に抱き上げられるんだもん。
ごじょ兄の見かけよりもずっと力強い腕と、いつも吸ってる煙草の匂い。
………それに混じって今日は別の香りがする………。
「ごじょ兄…」
「ん〜?なに?」
私を部屋に下ろして、宿題を見てくれるために机の上を片付けながら答えるごじょ兄を見つつ、
「……女の人連れ込んだ?」
って聞いた。
「……………なんで分かるんだよ?」
「だって…ごじょ兄以外の香りがするもん。捲兄とも違うし」
そう言うと、ごじょ兄は溜息をついて一言。
「には関係ないし?」
って言ってくれた。
私ってば、なんでこんな時に気付くかなぁ…。
私、ごじょ兄の事…男性として『好き』なんだ。
でなきゃ、さっきのあの科白にここまでショックは受けない、絶対。
「ぅぅぅ〜〜〜〜っっ…」
「何唸ってんだよ?」
唸ってんじゃないもんっ!
「泣いてるのっ!!!」
「え…?」
ごじょ兄の顔を睨みつけようと顔を上げたけど、次から次へと零れていく涙を止める事なんで出来ないっ。
できない事はしないから、徹底的に泣くとことにしたっ。
「ったく…なんなんだよ、いったい…ほら、泣き止めっての…」
ごじょ兄がいつものように私の頭を撫でてくれる。
「無理ぃ〜……ぇっ……止まんないよぉ……ぇぅっ…ひっく…」
いつもなら止まる涙も、今日は無理。
だって、好きだって気付いた瞬間に失恋だよ?
あまりにも可哀想じゃないっ、私ってばっっ。
でも、せっかくだし…。
「ごじょ、兄…」
「ん?」
尚も頭を撫でたまま、ごじょ兄が私の顔を覗き込む。
「わ、私ね?」
「おぅ」
何か言おうとしている私を見て、ニッっと笑顔を向けてくれる。
「ごじょ兄の事が好きなの」
「んなこと、前々から知ってるってのv」
「…………………………………………………はぃ?」
告白の仕方間違えた?
「えっと………近所のお兄ちゃんとかじゃなくって、男の人として、好きなんだよ?」
「だから、そんな事は、ずぅっと前から知ってるってのv」
んん〜〜??
どういうこと?
「いやぁ〜さすが捲簾。第三者視点ってやつ?」
「はい?」
なんでそこで捲兄が出てくるの?
ワケがわかんなくってグルグル考えていたら、ごじょ兄がギュッって抱きしめてきた。
なんかいつもと違う抱きしめ方(普段からスキンシップだとかで背後から抱き着かれていたから)に戸惑いつつ、ごじょ兄の服の袖を引張りながら、
「ねぇねぇ、どういうことなの?」
「難しいことじゃねぇって。この香りはな、捲簾がどこかで貰った女性用の香水を俺の部屋に撒いただけ」
「な、何でそんなことするの?」
「が勘違いするようにv」
って抱きしめたままの状態で、ごじょ兄が楽しそうに言っている。
こっちは全然楽しくないんだけどっ。
と言うか、勘違いってなに?
「わ、わかんないよぉ…」
「、鼻効くからさ、それを利用して、俺が部屋に女連れ込んでたって思わせたかったわけよ」
「なんでっ?」
「そうすれば、きっとは俺への感情が、『お兄ちゃん』じゃなくて『男』として見るだろうからさ」
「うっ…」
「当たりだろ?」
そ、そうだけどさぁ…。
なんでそんな事する必要があったのかなぁ…。
「あ、当たりだけど………どうして?」
「簡単v俺もの事『妹』じゃなくって『女』として見てたから?」
「疑問系で言われても、私には分かんないよぉ?」
「そりゃごもっとも。まぁ、要するに、俺もお前の事好きなんだわ」
あっさりと言われた言葉を思わず聞き流すところだった…。
「な、なんで言ってくれなかったのっ?!」
「いや、言ってもよ、俺の事『お兄ちゃん』としか見てなかったし?その状態で言えば『妹』として好きだって言ってるだけだって思うだけだろ?それじゃぁ、俺が虚しいじゃん」
「あ、そっか」
思わず否定せずに認めてしまった。
「んで、しょうがねぇから、捲簾に相談して、こうなったわけ」
「まず、私に自覚させようって?」
「おぉ、よく分かったじゃん?」
なんか、馬鹿にされた気分だっ。
むぅ〜っとしつつ、ごじょ兄を睨むと、ちょっと困った顔をして、
「んで?俺と両想いvって分かって、このまま俺の部屋にいる?」
「??どういうこと?宿題教えてくれないの?」
教えてくれないと困るよぉ…。
そう思って、ごじょ兄の腕の中から顔を上げると、ごじょ兄が呆気にとられた顔してた。
「ご、ごじょ兄??」
不安になって、止まってた涙がまた溢れそうになる。
「あ〜、泣くなっての…。宿題教えてやっから………」
溜息混じりにそう言って、ごじょ兄がポンポンと私の頭を軽く叩いた。
「ごじょ兄ぃ………」
変な事言ってるのかなぁ…私。
「はぁ………(俺ってばいつまで待てばいいわけ?あまり長く待てねぇんだけどなぁ…俺も普通の男だし?)まぁ…今はコレくらいで我慢してやるか?」
「ふぇ?」
何を我慢するの?
って聞く前に、ごじょ兄の顔が素早く近くに寄ってきて、私の唇に、軽いキスをくれた。
「ご、ご、ご…ごじょ兄っっっ!?!」
「んだよっ!コイビトならあたり前だろっ?」
「恋人?」
……………ぅあ…。
自覚したら一気に顔が赤くなっていくのが分かる。
「い、いいの?こんなお子様で??」
「がいいのv」
極上の笑みを浮かべて、ごじょ兄がそう言ってくれた。
ぽぉ〜〜っと見惚れて呆けていたら、スッと耳元に顔を寄せて、
「だから、早く精神的に大人になれよ?ま、身体は既に大人っぽいけどなv」
って言った。
赤かった顔が更に赤くなって…、
「〜〜〜〜〜〜っっ、ごじょ兄ぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!」
って叫んだら、隣の部屋から捲兄の笑い声が聞こえた…。
一部始終聞かれていたらしいよぉ………。
END
お兄さんっぽい悟浄に、お子様っぽいヒロイン。
ある日の午後?……時間設定不明になってしまっております(汗)
憧れの『ごじょ兄』発言(爆)
私にしては短目であっさり風味(爆)
そして、科白一切ナシの捲簾初登場(爆)
そしていつも通りに期待を裏切る女、廉御園っ(涙)
多分…いや、絶対に緋桃様の思っていたものとは違うと確信しつつも、
捧げますっ!
すみません、またしてもこんなんでっ(滝汗)
緋桃さまに限りお持ち帰り可能です。
ありがとうございます!
ホントに面白いです。ごじょ兄最高!!
捲簾まで登場だなんて…ホント感激です♪