〜リセット?〜
「ねぇ三蔵、ゲームってさ良くない?」
午後、三蔵と一緒に居られる久しぶりな時間。
私も三蔵も同じ空間に居るのに、違う時間を過ごしてる。
「………くだらんな」
新聞を読みながら、コーヒーを飲んでいる三蔵と、
ゲームをしながら話し掛ける私。
未だ何の事かも言って居ないのに、
私の事も見ないで吐き捨てた三蔵の台詞がコレ。
「未だ何も言ってないんだけど」
だから私も三蔵を見ないで、ゲームをしたままテレビ画面を見たままで居る。
「聞かなくたって、お前の考えてる事はくだらん」
久しぶりに二人で居るのに三蔵は楽しそうじゃないし、
私が持ち出した話しだって続きを言わせてくれないんじゃ何を言えば言いの?!
「………そう、じゃぁ良いや」
なんとなく腹が立って、言おうとした言葉を腹に仕舞い込んだ。
それから私は三蔵に話し掛ける事もなくゲームを続け、
三蔵が私に話し掛けることもなく新聞を読んでいる。
そして別々の時間を一緒に過ごしながら時間は刻々と過ぎて行った。
「あ!ヤバっ!」
不意に私が漏らしてしまった言葉。
さっきから続けていたゲームで、逃してはならないイベントを逃してしまった。
それは、やんなきゃならないもので、逃すと自分が不利になってしまうもの。
幸いな事に、それの直前にゲームをセーブして置いた為、
『初めからやり直し』や、『前にセーブして置いた場所からやり直し』
と言う事にはならずに済みそうだった。
仕方なく、ゲームを消しまた起動させる事になった。
めんどくさいけど仕方がない。
色々と私がやって居ると、後から視線を感じた。
降りかえって見ると、三蔵がじっと見ていた。
その視線に気付かないふりをしてゲームを再開させた。
今度は上手くイベントをクリア出来る様に慎重に。
無事にイベントをクリア出来、次ぎへと進む。
次ぎに進む前にセーブをする。
ずっと見ているだけの三蔵が
「ふん、やっぱりくだらねぇ」
って小さな声で呟いた。
セーブして、やり直して、戻って、進んで…………。
自分が納得するまで幾らでもやり直せるゲーム。
私はそれが良いと思った。
犯してしまった過ち、取残してしまった物を忘れない様に、
取りに行ける様になって居て。
羨ましかった。
「何がくだらないの?」
私が良いと言った物と、三蔵が良くないと言った物。
同じ物なのに価値観の違いで異なった受け取りをする。
「、お前コレの何処が良いんだ」
「やり直せる所、戻れる所……いっぱいあるよ」
主人公が私で、仲間を増やして進めるRPG。
ワクワク感もスリルもある。
「馬鹿だな」
それを、たった一言で壊された。三蔵の手によって。
「っ〜〜ムカツクッ!」
そう言って私はやって居たゲームを消した。
突然リセットもしないで電源から切った、テレビはブチンと不快な音を生み出した。
立ち上がり、コーヒーを取りにリビングを出た。
認めて欲しかったって訳じゃないけど、時々不安になるんだ。
三蔵の隣に居るのは私じゃないんじゃないかって。
三蔵の隣に何時までも居られないから。
それも解ってくれなかった。ゲームだったら、そこだけのやり直しが出来るから。
「三蔵の馬鹿」
言いたくて言った訳でもないけど、口から零れた言葉。
「誰が馬鹿だ」
後から声がして慌てて振り返ると、三蔵が私の背後に立って居た。
「お前何考えてんだ」
私の事を映し出す三蔵の紫の瞳は明らかに怒りを含んで居る。
何時もだったら、私から折れて元に戻ろうとするけど、今日はそんな気分じゃない。
「別に何も考えてないし」
三蔵から目を逸らし、コーヒーを持ってリビングに戻った。
私がコーヒーを飲み始めた頃三蔵もリビングに戻って来た。
「てめぇ、何一人で切れてんだよ」
座っているソファの隣に立って私を見下ろす。
見下してる様な目付きに見えて、今日は不快感に襲われた。
「切れてないって」
テレビを点け局番を回しながら、三蔵を見ない様にした。
なんだか腹立つから。余計な事まで言っちゃいそうで。
「………いい加減にしろ」
さっきよりもずっとずっと低くて思わず見上げてしまった。
「………三蔵は思わない?」
見上げた瞳が哀しそうに見えたのは、私の錯覚だろうか。
「……」
「ゲームってさ、やり直せるんだよ、リセットボタンがある」
最初に三蔵に言いかけた話。
「間違った道進んでも、セーブしたトコから」
涙声になりそうな自分を抑えて、下を向きながら話し続けた。
三蔵の顔が解らない。
「馬鹿だな救えんくらいの」
………涙が零れそうになってたのは気のせいだ。
三蔵の一言に溜まってた物が一気に溢れ出した。
「……えーえー、三蔵には解らないんでしょうね!」
コーヒーもリモコンもテーブルに置き、怒りで震える自分を抑えるのに必死で。
何にも言わないで立ち上がった私を観察でもするかの様に見てる。
持って来ていた荷物を全部バックに仕舞って、玄関へ向う。
靴を履いて、ドアを開けて出て行こうとするまで三蔵は止めもしない。
……その事に余計腹が立った。
と、同時に、私は偉いっ!って思ってた。良く我慢してたねって。
「…おい何処行く気だ」
ドアに手を掛けた時に聞くか?!
って思ったけど振り向いて三蔵を見た。
最後の最後に言いたい事を言う為に。
「私が会話をしようと話し掛ければ、『くだらねぇな』の一言で片付けて、
私から話し掛けなけりゃ会話なんかありもしない?!
共感を求めてる訳もないのに最後まで聞かずに終わらせてっ!
一緒に居たくないんだったら、どーぞど―ぞ、ごゆっくり。
私は三蔵の視界から居なくなってやるってのっ!!」
そう叫んで、三蔵の家を走って出て行った。
でもま、男と女の足。それだけでもハンデがあるってのに、
私は重たいゲームの入った鞄を持ってる。
案の定直ぐに三蔵に捕まった。
「何訳わかんねぇ事叫んでんだよ」
私の腕を掴みながら三蔵も怒鳴っていた。
「言った通りの意味!」
掴まれている腕を大きく振り、三蔵の手から逃れ様と抵抗する。
「……ッチ、来い」
三蔵に力で叶う筈もなく、掴まれたまま引っ張って三蔵の家まで戻された。
「おい」
呼ばれても、返事をする気分にはなれなくて。
「お前さっきゲームはリセット出来るって言ってたな」
「………言った」
不貞腐れながらソファに座ってると三蔵が私の言ってた話しに戻し出した。
「ゲームはな、リセットしか出来ねぇんだよ」
「リセット”しか”………?」
リセットしかの、”しか”の意味が解らない。
リセット出来れば十分じゃないの?
「人は、リセット出来ねぇ。だがな、リセットなんて面倒な事しなくて良いんだろ」
少なくとも、俺等には必要ねぇもんだな。
って付け加えて、三蔵は私を抱き締めた。
「リセットしたいって言ったら?」
されるがままに居た私は、三蔵の胸に顔を埋めた。
「無理だな。さっきお前も怒鳴っただろ?」
即答。
「怒鳴ったらリセット出来ないの?」
「ちげーよ、RPGの主人公は殆ど自分の事で感情的にはなんねーだろ」
お前には無理だ。
ゲームにはなれない。人間だから。感情があって、傍に居たい人が居るから。
もう、ゲームに憧れは抱かないよ。
ゲームの中より、居心地の良い場所、私持ってたもん。
不安になるのも、怒りたくなるのも人間だから。
彼方に会えたのもゲームじゃなくて人間だから。
三蔵の腕の力が強くなるのを感じて、私も三蔵の背中に腕を回す。
「」
確りと抱き締めあった後に名前を呼ばれて上を向いたら、
三蔵からの軽く触れるだけの優しいキスが降って来た。
ヘボっ!!
受け取ってくれてありがとうございます。愛染さん!!