<理由>
「おい」
不意に後ろから声を掛ければ、下を向いて歩いてたヤツが吃驚して顔を上げた。
「跡部」
コイツとはクラスが同じ。
それで前に席が近かった。
それだけの理由で俺等はそこそこな会話をする様になった。
俺のファンの奴等がコイツに手を出さないのは、コイツに彼氏がいるから。
態々手を出さなくても邪魔にならないと思ってるんだろうな。
「何ぼさっと歩いてんだよ、アーン?」
そう言うと小さく笑った。
「んー、ちょっと考え事」
最近コイツは何処と無く元気が無いしボーっとしてる事が多い。
顔色も悪くは無いが良く無い。
「………」
何故か浮かない顔をしている。
「、跡部、おはよーさん」
コイツと付き合ってるのは忍足。
同じテニス部で氷帝の天才。
俺よりではないが、やはりモテるタイプだ。
「おはよ侑士」
「あぁ」
忍足が来てからもあまり浮かない顔をしている。
「先に行くぜ」
俺が一人で校舎へ行こうとすると少しだけ驚いた顔をしてるのが視界の端に映った。
其れを気付かない振りして校舎へ向かった。
「なんや、跡部のヤツ機嫌悪いんか?」
そんな言葉が聞こえたが無視して歩いた。
「さぁ?」
必死に冷静さを取り戻そうとするアイツが気に入らなかった。
「跡部、朝何で機嫌悪かったん?」
午後練中に忍足が話し掛けて来た。
「あぁ?別に悪くねぇぜ」
『さよか』とか言いながら向日に呼ばれて俺の前からいなくなった。
「あ、侑士」
練習が終って着替えを終え学校を出様とすると門の前にアイツがいた。
「待ってたん?」
肩に掛かる少し長い黒髪が夕日に透けて茶色く見えた。
その表情が儚かった。
其れから数日後だった。
誰にも見られない様な校舎の片隅でアイツが泣いてた。
頬を伝わる涙を拭いもしないで只涙を流していた。
そんなアイツの姿を見てからすぐの事だった。
…忍足の噂を聞いたのは。
『忍足には他に彼女がいて、アイツは本命じゃない』
そう周りが騒いでいた。
それで初めて、アイツが泣いていた理由を知った。
「おい」
アイツは定期的に校舎の片隅に足を向けては泣いていた。
「跡部」
驚いた顔をしながらも涙を拭った。
アイツは他人に弱みを見せない。
見せてしまったら忍足のファンに何を言われるか、知っているからだろう。
「何、しに来たの」
涙を拭っても声は何時もと違う。
「別に」
立去ろうとするアイツの腕を引き座らせた。
その隣に俺も座った。
風が吹いて心地良い。
久し振りに静かな環境に来た気がした。
「…ねぇ跡部は知ってた?」
「侑士の彼女の事」
そう静かに呟くと又瞳を涙でいっぱいにしていた。
「……あたし知ってた」
ポツポツと話し出すコイツは、又涙を流した。
コイツは全て知っていたのだ。
忍足は他にも付き合ってるヤツがいたと言う事。
それでも忍足の傍にいたかったと…。
そう言った。
悔しかった。
ハッキリ言って、テニスでも勉強でもトップクラスで中学になってテニスでは一度も負けてない。
そんな俺なのに、何が悔しいのか解らなかった。
只、コイツが此処まで泣く理由が知りたかった。
「…ホントはあたしだけ見て欲しかった」
自分の事だけ見て、自分だけを隣に置いて欲しかった。
そう言っていた。
「あたしじゃダメだったんだ」
そう言うと再び涙を流した。
綺麗な涙を流しては定まらない視線を俺に向けた。
「ゴメンね跡部、愚痴って」
笑って言っているが溢れ続ける涙は止まる術を知らずに流れ続けた。
整った顔を少し歪めて涙は頬を伝って流れた。
そんなコイツが気に入らなかった。
だから………。
「っ!跡部?!」
吃驚したコイツを黙らせる様に強く腕の中に閉じ込めた。
「ちょっと何ッ?!」
抵抗して俺の腕から出様とするから少しだけ力を緩めた。
俺を決して映さなかった瞳が俺だけを捕らえた。
忍足しか見ていなかったコイツに腹が立った。
一定の距離を保っていた唇がその距離を乱した。
「なっ!!」
吃驚した顔を隠さずに俺の顔を見ている。
コイツの十数メートル先に何気なく歩いてる忍足が見えた。
多分サボりか追っ駆けから逃げて来たって所だろうな。
「ちょっ…跡部!!」
又俺の腕に閉じ込めた。
物音とコイツの声に気付いた忍足が此方を向く。
眼鏡越しに見開かれる忍足の瞳。
驚いて此方を見た儘動かない。
其れを良い事に俺は腕に力を込めた。
そうすると腕の中のコイツは大人しくなって其の儘涙を流した。
静かに声を殺して…。
泣き顔を見せる事無く…。
抱きしめながら忍足を挑発的に見てやった。
先ず、名前変換少なくて申し訳ないです。
何となく名前を呼ばせたくなかったもので…。
次はもっと名前を呼ばせたいですねぇ。
しつこいくらいに。
跡部様のシングルCD『理由』を聞きながら今回の作品を仕上ました。
何となくこんな片恋をしてこうやって奪って来そうな気がしたので。
因みに忍足侑士はあたしの中でこんな感じが強いですね。
一途な忍足侑士も有りだとは思うんですけど…。
跡部様があまり話してないです。
今回初めて跡部様の夢小説を書きしかも跡部景吾1人称って事で多めに見てやって下さいませ。
出来れば又エンドレスでCD流して夢小説書き上げたいですね。
『て〜つなご』とか『…みたいなアルケー』とかでシリアスな様な甘い感じの夢小説書きたいですね。
初の跡部景吾夢小説『理由』は如何でしたでしょうか。
感想頂けると嬉しいです。