「泣いて良いんだぜ?」

「そうだよ、泣けよ」

「我慢は良くないですよ?」

「……泣け」

 

 

 

 

 

 

<別れ>

 

 

 

 

 

 

 

別に泣きたい訳じゃないし、泣くのを我慢してるつもりもない。

只、彼等がそう言って居るだけ。

余り辛いと思わなかったし、だから素直に泣ける筈がない。

初めから泣く気なんてないから。

彼等が心配してくれるのは、凄く嬉しいけどハッキリ言ってそこまであたしは弱くない。

「大袈裟、大丈夫だし」

どんなにあたしが笑って言っても、彼等は顔を歪める。

「なんで悟空が泣出すのさ」

大きな金の瞳から大粒の涙が溢れ出し、彼の頬を蔦って止めど無く流れ落ちた。

「だっ…て…」

涙を拭おうとしても、左手が動かない。

左腕全体が動かない。

神経を疵付けてしまい、肩から下が動かなくなってしまった。

敵の襲撃に遭遇し、避け切れなかったあたし目掛け、妖怪が刃を向けたんだ。

「平気だって」

逆の手で悟空の頭を撫でる。

丁度あたしの左側に居る悟空に右腕で撫でるのは少しきつい。

「ゴメン!!……俺が、俺が確りしてれば…!」

ずっと自分を攻め続ける悟空に、他の3人は何も言えない。

あたしが励ましても逆効果。

ずっと自分を攻め立てて居る。

「避けられなかったのはあたしの所為。悟空の所為じゃないって」

1番遠くにいた悟空が、あたしの元まで必死で走って来てくれただけで十分嬉しい。

「でも、俺が…傍に居てやればっ!」

1人離れて闘っていたあたしに1番近かった三蔵でさえも間に合わなかった。

助けて貰おうとも思ってなかった。

左腕くらい…そう何処かで思っていたからきっと悟空を攻めさせる結果になってしまったんだ。

「あたしは人に護られたくないんだよ」

だから良い。

そう言っても悟空は解ってくれない。

解りたくないんだろう。

悟空より1回り身体の小さいあたしは、悟空の妹みたいな場所に居たから。

「ごめん……ごめんな、

「謝り過ぎ、平気だって言ったじゃん」

悟空だけでなく、悟浄や八戒までもあたしに謝り初めて…

三蔵は相変わらず無言で居たけど。

 

 

 

 

それから少しして、左腕の重大さを思い知らされた。

元々右利きだったから、左がなくても闘えると思っていた。

武器は薙刀。

そこそこ武術の心得はある。

だから左無しでも扱えると思っていた。

敵の攻撃を避けるのに、左の反応が如何しても遅くなってしまう。

只、数の多い時は少し厄介だ。

そして、それの所為で掠り傷などが増えてしまった。

それも原因の1つ。

もう1つの原因は、あたし自身荷物になって居ると感じたから。

護られるのは嫌い。

そう言った癖に、彼等はあたしをサポートする様に闘ってた。

あたしもサポートなしで闘い抜ける自信がなくなって来て居た。

左が動かせない分、普通の生活にも支障が出て来たし、何よりも闘いの場で右腕が上がらなかったりする。

そんな時、自分の無力さを痛感する。

悟空があたしの直ぐ傍で闘ってくれて、あたしは前みたいに沢山の妖怪を殺す必要がなくなって来ていた。

でも、悟空や悟浄・八戒・三蔵、其々敵に狙われる。

あたしばかり見ていては彼等が逆に危険な目にあってしまう。

何を間違えたんだろうか。

あたしは、ずっと助けられる事なく自分の力だけで妖怪と闘えると思ってたのに。

 

 

動かない左腕、左腕を庇い過ぎて悲鳴を上げる右腕。

彼等に与える多大な疲労。

そして、頼らないと旅を続けられない自分。

嫌気が差した。

護られる事、縛り付ける事、不自由な生活。

彼等に与える罪悪感。

悟空が1番罪悪感を感じていた。

宿に着いても、あたしの事を心配して休まる事なく町を離れる。

ずっと、こんな事を続けられる筈がない。

三蔵が負傷したあたしをココまで連れて来てくれただけで十分。

 

飾り物の左腕、もう直ぐ飾り物になってしまう右腕。

傷つけてしまった事への嫌悪感。

例え旅を降りたとしてもこの疵だらけのあたしが生活して行ける筈がない。

 

 

 

「あたしちょっと出掛けて来るね」

大き目の町に着いて、部屋に入る。

あたしが1人部屋になる事は余りない。

1人で生活出来ないから。

でも、買い物や散歩はなるべく1人でさせて貰う。

チンピラを蹴散らす位なら平気だし、1人で息抜きもしたいだろう。

そう言う結論からだった。

『気を付けろ』

みんな其々の口調であたしに声を掛ける。

「行って来る」

そう伝えてドアを開ける。

 

宿屋の後ろは何もなく、在るのは小さな花畑。

少しだけ見て周り、宿屋から少し離れた人通りの少ない場所へと向かった。

大きな樹の下に腰を下ろし、夕日を眺める。

そこで大きな決心を決める。

 

 

 

 

 

 

 

「もう、旅止めよう」

言葉に出すと、少しだけ気持ちが楽になった。

荷物になってる自分と別れられる。

「闘いながら生きてく自信がない」

温かさも、寒さも、傷みも何も感じない左腕に手を置いて…

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりっ!」

金色の大きな瞳ともお別れになる。

紅い瞳とも、翠の瞳とも、紫の瞳とも…。

其々の温もりと離れて、あたしはどうするんだろう。

「三蔵、話しがあるんだけど」

4人の大部屋で新聞を読んでる三蔵の元へ行くと、眼鏡を掛けた三蔵の顔があたしに向けられる。

……この向けられる瞳、絶対忘れないから。

「…なんだ」

眼鏡を外してあたしの話しを聞き始めてくれる三蔵は、優しいと思う。

「あのね、あたし…旅降りる」

簡潔に伝えて、三蔵の返事を待ったけど、三蔵から返事は中々返って来ない。

変わりに、後から考え直す様にと掛けられる。

「ごめん、決めたんだ」

心配そうにあたしの顔を覗き込んむ八戒。

真剣な顔して旅を続ける様に言ってくれる悟浄。

大きな瞳を向けて手を握って来る悟空。

「…三蔵!!」

あたしに言っても無駄だと解ったからか、三蔵の方を向く。

手は強く強く握って離そうとしない。

「……理由は」

三蔵の口から放たれた言葉は悟空等が喜ぶ言葉じゃなかった。

「荷物はイヤだ」

「荷物じゃねぇよ!」

「考え直してはくれませんか?」

「絶対ヤだ!は俺が護るんだ!!」

悟空が握って居るのは左手で、何も感じない筈なのに悟空の手の温かさが伝わって来る様だった。

酷く懐かしい温かさ。

「…お前が決めたんだな」

「三蔵?!なんでっ!!」

あたしと旅を続けたいと三蔵に訴える姿は、あたしの決心を鈍らせようとして…

「悟空ありがとう。足手纏いになってるんだよ」

左腕が動かなくなった時点で…

邪魔になってしまう。

大事な旅にあたしは必要ない。

「イヤだ!!俺はと一緒じゃないとイヤだ!!」

「嬉しいけどごめん。一緒には行けない」

悟浄も八戒もあたしが考えを変えない事にもう何も言わなくなった。

 

 

 

次の日、ジープには1人欠けた一行の姿があった。

初めに戻っただけの三蔵一行に…。

本当は連れて行く筈だった。

がどんなに足手纏いだと言っても。

三蔵一行の中に、は解け込んでいたんだ。

必要不可欠な存在として。

足手纏いだとか、邪魔だとか荷物だとか…の事をそんな風に見た者は誰1人居なかった。

が自分を追い込んでそう勘違いしてしまっただけだった。

 

 

 

 

朝起きると、部屋にの姿はなかった。

出て行ったと思っていた。

きっとこの町で生活するだろうと。

 

 

 

 

ジープが出発して、町から随分と離れた所に影が1つあった。

見覚えの在る姿。

 

紛れもなくの姿だった。

幾つかあった樹に凭れ掛かる様に体重を預けている。

下を向いていたの顔は笑っていた。

とても哀しそうに。

嬉しそうに笑う彼女の姿はもう2度と見れない。

の笑顔を見たのが昔の様に感じる。

怪我を負ってからは余り笑わなくなった。

笑っても、前の様な笑顔ではなくなっていた。

一行はずっと前の笑顔を見せて欲しかった。

ジープの中で。

華やかに笑う彼女を見て居たかった。

例え旅が終わったとしても。

 

 

 

2度と叶わない一行共通の願い。

たった1つの願いも叶える事なく、彼女は消えた。

文字通り、この世から。

 

 

 

笑わない彼女の髪は、頬を掠める柔らかな風に揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうでしょう。スランプ中の夢小説。相手は一体誰なんでしょうか?途中悟空?とか思ったんだけど…

違うみたいね。

1度書いて見たかったんです。こう言う勘違いっぽいヤツ。

んでシリアス系を!意味不明です。

この夢書いてる時、管理人の左腕が奥の方から傷みを感じたんですよね。

初めてですよこんな肘の傷みは。

つーか、今も痛いですよ?でも打ってます。

泣けるヤツ狙いだったんですけど…。泣けないですね。

すみませんヘボで。