<Wish>
あの時どうして間違ってしまったんだろうか。
今更なのは解り切っているけど、そう言わずにはいられない。
人は後悔する様に出来ているから。
そうせずにはいられないから。
例えどれだけ後悔しても戻らない事実。
最近、ずっと好きだった人に彼女が出来た。
もてはやされてはいたけど彼女はいなくて、悪友的な仲のたしとは正反対な子。
一度だけだったけど話した事がった。
凄く優しい良い子。
この関係を壊したくなかった結果がこれだ。
見たくない、見ないだろうと勝手に思ってた現実。
息も白くなる寒い季節。
真っ白いマフラーが似合う長めの黒髪。
大きな瞳を更に大きく見せる二重。
控え目な感じを持った彼女を好きになったんだろう。
笑った顔がとても優しく綺麗な子。
その笑顔の先には………たしの好きな人。
何て残酷でいて、涙が出るのだろうか。
もう少しだけでも勇気がれば…たしは。
その勇気のなかったたしは、こうやって後ろから見てるだけ。
下校時に見たくない二人を見てしまう。
時間をずらしても何故か見てしまう。
その度に傷付く自分に今ではもう笑いが込み上げて来る。
何故たしが見なくてはならないの?
何故たし?
今まで振られて来た人達はこんな思いをして来たのだろうか。
胸の奥が痛い。
こんな思いを…。
告白すれば良かったと思う。
けど、たしと正反対の性格の子と付き合ってたら例え前に告白していてもムダだったかもしれない。
きっと、結局はこうなってしまうのかもしれない。
何時か忘れてしまいたい。
「跡部ッ……」
たしは跡部の隣で歩く事も話す事も認められない。
もうたしに居場所はない。
涙だけが流れる事を許される。
行き場を失った心は出口もない迷路へと誘う。
逃れられない。
声を出して叫ぶ事も許されない。
静かに涙を流すだけ。
サボリのスポットへ行っても跡部はいない。
もうたしの知ってる跡部はいない。
もう…いない。
何でこんなに辛い恋をしてしまったのだろうか。
たしだけが苦しい恋。
出来る事ならもう二度としたくない。
「大丈夫か?」
下校時に公園に寄った。
暗くなり始めた所為か子供の姿はない。
ブランコに乗って唯泣いていた。
それしかたしには許されないから。
「……」
顔を上げるのも億劫でずっと下を向いていた。
誰なのかは知ってる。
「…何」
たしの言葉になにも言わず隣のブランコに乗った。
「……跡部奪われた感じか?」
この男は知ってるのだろうか。
たしが跡部へ抱く思いを。
「それとも…好きだったん?」
何でこの男は良く人を見てるのかな…。
流れる涙だけは止まらない。
泣いた所でどうにもならない。
消えはしない。
「平気?」
高い空には夕暮れと夜とが共存してる。
徐々に飲み込まれて消えて行く夕暮れ。
冬の寒さがジリジリと襲って来る。
「……空を飛びたい」
何時だったか跡部に聞いた事がった。
中学生だと言うのにブランコが好きなたしに向かって言った事。
「ブランコは『空を飛びたいと願った人が初めて作った空に近付ける物』なんだよ」
たしの中の跡部が言う。
感激したたしの顔を見て笑った跡部の顔が優しくて、たしは恋をした。
「大地に足を着ける事しか出来ないたしが何時か空を飛べるかな」
何時だってたしの思い出の中には跡部がいた。
「空は飛べんよ」
苦笑いを浮かべてたしを見る。
たしの涙でぐちゃぐちゃになった顔に手を伸ばす。
「眼腫れるで」
頬に伝った涙を拭って笑った。
「空を飛びたい」
何時だってそう、たしの願いは叶わない。
この願いも叶わない。
「高いトコ行きたいん?」
違くはない。
確かに今は高い所へ行きたい。
「よっ!」
「ちょっ??」
たしの体を持ち上げて下からたしを見上げる。
「何してんの、忍足」
持ち上げられて余裕に2メートルは超えているだろう。
見た事のない世界が広がっていた。
また涙が溢れてしまう。
たしはこんなに弱かったの?
「……もう良いよ」
甘やかされたらいけないと思うのに。
忍足の鬱陶しい程の優しさが傷付いた心を癒やす。
これは唯の同情なの。
「大丈夫だから…一人にして?」
同情に甘えて縋ってはいけない。
自分で同情だと気付いて接しなければならない。
「…さよか?」
もう自分で立ち上がらなければいけない。
少しだけ泣いて次の日に笑える様に。
「明日ね」
手を振って後ろを振り返らない。
見たら戻ってしまう。
だから、泣いても良いよね…?
I wish I
were a bird.
CMで有名な科白ですよね。
こんなのをイメージしながら書きました。
如何も跡部を書くと忍足が絡み忍足を書くと跡部が出て…。
うーん、愛故ですか(笑
久々に失恋モノです。
2006/02/19